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読むだけで文章力が身につく「プロのコツ」とは

渋谷和宏(『日経ビジネスアソシエ』創刊編集長/経済ジャーナリスト)

2015年01月19日 公開 2023年01月30日 更新

 

リーダーとしての文、フォロワーとしての文

<C>

 「男は中身」はもはや死語だろう。女性やビジネスの相手に与える好感度を少しでも上げたい――そんな男たちをターゲットにした「男は見た目」市場が空前の活況を呈している。

 その筆頭は男性向けのつけまつげサービスだ。目元をはっきりさせたいと、まつげに人工の毛をつける「まつげエクステンション」をする男が急増している。東京・渋谷区にある、まつげエクステンション専門店では2年前に男性コースを開設して以来、右肩上がりで男性客が増え続け、今や客全体の1割に達する。

 彼らの多くは営業マンや経営者だ。目的は顧客や取引先に好印象を与えるためだという。「顔の印象は大事ですから。私たち日本人は欧米人に比べてまつげの本数が少なく下向きが多いそうで、つけまつげの効果は大きいとお店の人に聞きました。たしかに上向きのまつげをつけると顔つきが明るくなりますね」30代の営業マンはこう語る。

 この文章は3つの小段落から成り立っています。

 どの小段落についても、最初の一文が小段落を代表している構成に気づかれたでしょうか。

 より具体的に言うと、Cの文章では、どの小段落も、最初の一文が小段落全体で何を言いたいのかを要約していたり、小段落で言いたい内容の前振り役を務めていたりするのです。

 最初の小段落では「「男は中身」はもはや死語だろう」という一文で、男性の変化や「男は見た目」市場の成長ぶりを要約しています。

 2番目の小段落では「その筆頭は男性向けのつけまつげサービスだ」の一文が、後に続く文章の前振り役を務めています。「男性向けのつけまつげサービスの話ですよ」と振っておいて、その活況ぶりについて具体的に説明するわけですね。

 ここでとても大事なポイントを挙げておきたいと思います。

 実は文章を構成する文には、2種類あるのです。小段落を代表する文と、それを証明したり補足したり説明したりする文です。

 おそらく皆さんの多くはこれまで、文には2つの種類があるなんて考えもしなかったと思います。

 学校では教えてくれませんからね。しかし読むだけで文章がうまくなる方法論を身につけるうえで、これは重要なポイントですのでぜひ覚えておいてください。

 文章を構成する文には2種類あります。

 ここでは2種類のうち小段落を代表する文を「リーダー(牽引役)としての文」あるいは「題目としての文」と呼びましょう。

 そして、それを証明したり補足したり説明したりする文を「フォロワー(付き従う者)としての文」あるいは「中身としての文」と呼びましょう(以下、本書ではそれぞれ前者の呼び名を使います)。

 さて、今度はDの文章を、小段落の最初の一文に注目してもう一度、お読みください。

<D>

 「まったく、急に出口を示されて『こっちに来い』と。夜行性のフクロウは困り果てていますよ」。東京のベイエリアに建つ超高層ビル、その最上階にある本社オフィスで、24時間営業のレストランチェーンを展開するヘーゼルナッツの会長兼CEO(最高経営責任者)、持田一郎は苦笑交じりにつぶやいた。

 大手スーパーのトモスがドラッグストアを展開するカワグチケアヘのTOB(株式公開買い付け)に名乗りを上げた翌日のこと。もちろん、フクロウは困惑する持田自身のことだ。

 先にTOBに動いたヘーゼル、カワグチケア経営陣の要請を受けたトモス。「カワグチケアの株を100株しか持っていなくて、100パーセント取りに来たトモスが白馬の騎士なら、こっちは強盗ですか。それは違うのではないか」。持田はこうも語ったが、30パーセントを握っていたヘーゼルが買い付けることができた株もまた100株。陽の光にさらされ、身動きが取れなくなったフクロウさながら、持田の買収劇は失敗に終わった。

 こちらも3つの小段落で構成されていますが、最初の一文はどれも小段落を代表していません。要約もしていないし前振り役も務めていません。

 このため、僕たちはそれぞれの小段落が何を言おうとしているのか何のヒントも情報も与えられず、手探りで文の連なりに分け入っていかなければなりません。

 だからわかりにくいのです。

 決して大げさではなく、僕たちは道案内のいない森に紛れ込んでしまったように、何を頼りに先に進んでいいのか見当かつかず、途方に暮れてしまうのです。

 Dの文章を構成するそれぞれの文は、「フクロウは困惑する持田自身のことだ」にしても「先にTOBに動いたヘーゼル、カワグチケア経営陣の要請を受けたトモス」にしても、決して意味不明ではありません。文法的に誤ってもいません。それどころかコメントのためのメモ書きであるCよりも表現に工夫が凝らされています。

 にもかかわらずDはわかりにくい。最初の一文が小段落を代表していないだけで文章はここまでわかりにくくなってしまう代表的な例と言えるでしょう。

 先ほど僕は、Cは守るべき文の順番のルールに則して書かれているが、Dはルールを逸脱していると書きました。

 そのルールとは、こうです。

 リーダーとしての文を小段落の先頭に置き、フォロワーとしての文をその後に続ける

 このルールを守った文章は、中身を示すラベルがきちんと貼られた箱のようなものです。文頭に置かれたりーダーとしての文のおかげで、小段落という箱に詰まった文たちが何を言おうとしているのか、1つの明確なメッセージを発するようになります。そのおかげで、読者は道案内を得た旅人のように進路を明確にイメージしながら、文章という森の中に分け入っていかれるのです。

 

読むだけで書く力を身につけるコツその1

 ここで、読むだけで文章力が身につく「コツその1」を伝授したいと思います。

 とても簡単です。

 文章を読むとき、リーダーとしての文が小段落の文頭にきているかどうか常に意識する

 これだけです。

 本書のテーマである実用文なら、どんな文章でもかまいません。新聞や雑誌の記事でも書籍の一部でも、リーダーとしての文が小段落の文頭に置いてあるわかりやすい文章は何度でも読みかえし、リーダーとしての文とフォロワーとしての文の関係を実感してください。

 これを実践するだけで1ヵ月もたたないうちに「リーダーとしての文を小段落の先頭に置き、フォロワーとしての文をその後に続ける」基本ルールが身につくでしょう。

 もう少し難しい言い方をすれば、文章の基本単位である文と、文章の基本ユニットである小段落のあるべき関係を理解し、小段落における正しい文の並び方を自分のものにできるようになるでしょう。

 そうなれば、文章を書くとき、ごく自然にルールを守ろうとしている自分に気づくはずです。

 


<書籍紹介>

文章は読むだけで上手くなる

渋谷和宏著

本体価格890円

「文章は書かないと上達しない」は、嘘。あの『日経ビジネスアソシエ』創刊編集長が長年をかけてノウハウ化した、斬新な文章上達法。

 

 

 

著者紹介

渋谷和宏(しぶや・かずひろ)

作家・経済ジャーナリスト、大正大学表現学部客員教授

1959年横浜市生まれ。1984年日経BP社に入社。日経ビジネス記者として取材、執筆を行う。1998年同誌副編集長、2002年日経ビジネスアソシエを創刊し初代編集長を務め、2006年4月18日号では10万部を突破する。日経ビジネス発行人などを務めた後、2014年3月末、日経BP社を退職、独立。現在は作家、TVコメンテーター、ラジオパーソナリティーなど幅広く活躍している。
主な著書に長編ミステリーの『銹色(さびいろ)の警鐘』(中央公論新社)『罪人(とがびと)の愛』(幻冬舎)、ノンフィクションの『稲盛和夫 独占に挑む』(日本経済新聞出版社)など(以上、渋沢和樹の筆名)。主な出演番組は『シューイチ』(日本テレビ)『森本毅郎・スタンバイ!』(TBSラジオ)『まるわかり!日曜ニュース深堀り』(BS-TBS)『渋谷和宏・ヒント』(TBSラジオ)など。趣味はランニングと大衆酒場めぐり。

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