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<鉄客商売>JR九州 携わる人々の「気」を集め、感動を生み出す

唐池恒二(JR九州会長)

2016年06月08日 公開 2022年07月11日 更新

<鉄客商売>JR九州 携わる人々の「気」を集め、感動を生み出す

《隔月刊誌『PHP松下幸之助塾』[特集:お客様の心をつかむ]より》

 

日本初のクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」がもたらした奇跡

 デラックススイート3泊4日で、1人60万円から。そんな贅沢な列車の旅が、空前の人気を呼んでいる。半年ごとの予約受付には、申し込み者があとを絶たない。その列車の名は「ななつ星in九州」。九州を4日をかけて周遊する、日本初のクルーズトレインだ。その生みの親こそ、JR九州会長の唐池恒二氏。常識では考えられないほどに贅を尽くした豪華列車は、どのようにして生まれたのか。そして、なぜ人々に愛されてやまないのか。その秘密をうかがった。

唐池恒二
JR九州会長。1953年大阪府生まれ。’77年京都大学法学部卒業後、日本国有鉄道に入社。’87年国鉄民営化に伴い、九州旅客鉄道(JR九州)に入社。「ゆふいんの森」などユニークな観光列車の運行に尽力。その後、外食事業を建て直し、JR九州フードサービス社長に就任。2009年JR九州の社長に就任。九州新幹線全線開業、新博多駅ビル開業とともに、地域を元気にするデザイン&ストーリー(D&S)列車を次々と世に出し、農業にも進出する。’13年10月より運行中のクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」では、企画から運行までみずから陣頭指揮を執った。’14年JR九州会長に就任。

〈取材・構成 高野朋美/写真撮影:河本純一〉

 

見ただけで涙が止まらなくなる列車

 「ななつ星in九州」(以下、「ななつ星」)の車内、見たことがありますか?もしまだでしたら、ぜひともご覧ください。たぶん、泣きますよ。

 先日、ある証券会社の社長さんを、特別に車内にご案内しました。博多駅を出発する前の10分間だけでしたが、その社長さん、「ななつ星」を見て泣かれたんですよ。証券会社と言えば、海千山千のビジネス戦士が集まるところです。ちょっとやそっとのことで泣くはずがない。その戦士の長が、涙をこぼされたんです。

 「ななつ星」を見た人の中には涙される人も少なくありません。初運行した2013年10月15日、線路沿いで手を振ってくれた人の3人に1人が泣いていました。わずか2、3分ほど目の前を走るだけなのに。

 なぜ見ただけで泣くのか。私は、「ななつ星」のすみずみにまで染み込んでいる「気」が、お客さまを感動させるのだと思っています。気とはエネルギー。熱エネルギーが電気に変換されるように、気のエネルギーもまた感動に変換され、見る人の心を揺さぶります。

 どうして「ななつ星」は、これだけの「気」をまとっているのか。それを語る前に、この列車がどうやって生まれたのか、そのいきさつをお話しします。

 

もしも九州で豪華列車を走らせたら…

 この豪華列車の発想が最初に生まれたのは、もう28年前のことです。当時私は、JR九州の営業課副長でした。そのときお付き合いのあった知人が、「九州に豪華列車を走らせたら大ヒットするよ」と力説されました。私も「面白いな」と思ったのですが、そんな構想を実現する自信はなかったし、一介の副長が役員まで企画を通していくなんて、あのころの当社ではあり得ませんでしたね(笑)。

 それから私は、由布院の観光列車プロジェクトを経て、船舶事業部で高速船ビートルの立ち上げにかかわり、4年後に配属された外食事業部で、赤字だった外食部門を3年で黒字化。その後、外食事業部を独立させたJR九州フードサービスの社長を務め、2009年にJR九州の社長に就任しました。

 振り返ってみると、私は社長に就任してすぐ、社内に「こういう豪華列車がつくれるかどうか、技術的、営業的に検討せよ」と指示を出しています。でもこのときはまだ、本気で豪華列車をつくろうとは思っていませんでした。

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