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真のチームワークは個々の成長から生まれる~井村雅代・シンクロ日本代表ヘッドコーチ

マネジメント誌『衆知』

2016年10月01日 公開 2016年11月21日 更新

シンクロ日本代表を復活させた信念と手腕

一糸乱れぬキレのある動きで観客を魅了するシンクロナイズド・スイミング。高得点を出すにはチームワークが不可欠だが、それは単に失敗を補い合うことではない。「1番になりたいという気持ちで切磋琢磨してこそ、本当のチームワークが生まれる」――。長年日本代表チームを牽引し、厳しい指導で知られる井村雅代ヘッドコーチは、個々の成長こそが大事と喝破する。では、そのために指導者に必要なものとは何か。アテネ五輪を最後に離れていた日本代表のヘッドコーチに復帰し、常勝チームの復活を担う名指導者に、結果を出すチームづくりの要諦をうかがった。

※取材・構成:坂田博史、写真撮影:永井 浩
『衆知』2016年5・6月号、特集「難局を打破する組織力」より一部抜粋

 

チームのレベルは1番上の人に合わせる

チームを指導していると、メンバーの1人が、これまで誰もできなかったことができるようになる瞬間があります。この瞬間、まわりのメンバーもそれに気づいて、チームがガラッと変わります。なぜなら、1人ができれば、その人を見本にしてチーム全員ができるようになるからです。

人間は、見て学ぶ能力が非常に高い動物です。だから、「〇〇さんの動きをよく見て練習しなさい」と言えば、遅かれ早かれ、全員ができるようになります。

しかし、これはコーチの力量とは関係ありません。ボトムアップは、コーチの仕事ではなく、選手の仕事です。 

では、コーチの仕事は何かと言えば、いかにしてその「最高のレベルの1人」を生み出すかです。最高のレベルの1人には見本がありません。見本がないなかで、いかに新しいスキルを身につけさせるか、もう1段高いレベルに引っ張り上げるか。それこそが、コーチの仕事なのです。

チームメンバーの力量は、それぞれです。シンクロのチームは8人で泳ぐのですが、「誰に合わせているのですか?」と聞かれることがあります。4番目の人、つまり真ん中の平均的な人に合わせていると思われるかもしれませんが、実際は1番高いレベルの人に合わせています。

高さが1番の人、スピードが1番の人、ジャンプが1番の人、それぞれの1番の人に合わせます。それは当然で、もし4番目の人に合わせたら、1番の人に「全力で泳いではダメ。手を抜いて泳ぎなさい」と言っているのと同じことになってしまいます。これは1番の選手に対して大変失礼なことではないでしょうか。

また、真剣勝負の試合で、手を抜いて泳いでいる選手がいて勝てるはずがありません。全員が全力を出し切って、ようやく勝てる。だから、全員が1番の人と同じレベルで泳ぐのが当然なのです。

そして、この1番の人のレベルを引き上げるのがコーチの仕事であり、リーダーの仕事です。

もちろん、コーチである私にも、どう指導すれば、今できないことができるようになるのかはわかりません。1人ひとりの選手をよく見て、試行錯誤を繰り返しながら、まだ誰も見ぬ世界へ選手と一緒に進んでいく感じです。

もっと言えば、どういった方向に選手を進化させれば確実にメダルが取れるのか、最初から見えているわけではありません。

それでも、チームをゴールに連れていくのがコーチの仕事ですから、人の心はどちらの方向に動いているだろうか、世界の価値観はどのように変わりつつあるだろうか、ありとあらゆることにアンテナをはって、先を読んで、目標を決めます。目標を決めたら、なにがなんでもそこまで行く。その繰り返しです。

 

井村雅代(いむら・まさよ)
シンクロナイズド・スイミング日本代表ヘッドコーチ
1950年大阪府生まれ。シンクロ選手として、日本選手権で2度優勝。天理大学卒業後、中学校教師を経て、78年から日本代表コーチに。84年のロサンゼルス五輪から2004年のアテネ五輪まで6大会連続メダル獲得。06年中国代表のヘッドコーチに就任。08年の北京五輪、12年のロンドン五輪で中国にメダルをもたらす。14年イギリス代表コーチを経て、日本代表ヘッドコーチに復帰。世界水泳選手権大会で長く低迷していた日本代表チームにメダルをもたらした。

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