高村正彦×島田晴香(AKB48) やっぱり、選挙にいきましょう!
2015年11月25日 公開 2017年10月08日 更新
『18歳からの政治学入門 選挙ってなんだろう!?』より一部転載
「主人公の意識」がない国民
高村 島田さんはテニスをやっているんですって?
島田 はい、今はテニスをやっています。スポーツは好きで、子どものころからいろいろと。高村先生は少林寺拳法をやられているとか……。今でも練習していらっしゃるんですか?
高村 これは難しいんですよ、やっているかやっていないか(笑)。少林寺拳法というのは名誉段というものがない。私は4、5年前に五段を取ったんですよ。だから、やっていないと言うわけにはいかない(笑)。
島田 私も小学生のころは少林寺拳法も習っていたんです。
高村 そうですか。今日はなんでも聞いてください。
島田 よろしくお願いします。さっそくなんですが、日本の選挙の現状についてお伺いしたいんですが。
高村 はい。
島田 今、投票率がすごく低いって言われているのでちょっと調べてきたんです。そうしたら、去年(2014年)の衆議院議員選挙の投票率は、52%で戦後最低だったんです。なんで投票率が低いんだろうと疑問に思うんですが、先生はどういうふうに感じておられるのかな、と思いまして。
高村 やはり、自分たちが主権者だ、という意識に欠けているということだと思います。「国民が主人公」というのは、ある政党が選挙でよく使うキャッチコピーで、私はその政党とは対立することが多いんですが(笑)、とてもいいコピーだと思いますね。投票しない人たちには、自分たちこそが主人公だっていう意識が欠けているんじゃないですかね。
島田 国民が政治の主役であるということですか?
高村 そもそも、民主主義とはなにか。それをいちばんよく表した言葉が、アメリカ合衆国第16代大統領、リンカーンのゲティスバーグにおける演説の一節です。知っているかな。「人民の……」
島田 ええと……「人民による、人民のための政治」ですね。
高村 そう。だから、みんなに参加してもらわないと、人民の人民による政治にならないわけです。選挙に参加してもらわないといけない。ところが、選挙が終わったあとに、テレビで若い人がインタビューされているのを見るとね、「投票行きましたか?」「行きませんよ」「誰が当選したって政治は変わりませんよ」なんて言っている。もうワンパターンで、毎回そういうのが出てくるでしょう。
島田 はい、よく見ます。
高村 そういう人は、「どうせ変わらない」ということを。「どうせよく変わらない」という意味でしか意識していないと思うんだよね。けれども、政治というものは……権力というものは恐ろしいものでね。
島田 そうなんですか?
高村 うん。ものすごく悪く変わることだってあるんですよね。よく変えることも大事だけど、悪く変わらせないということも大切なんですよ。
島田 悪く変わらせない? それはどういう意味ですか?
高村 たとえば、これは選挙で選ばれた政権じゃないけど、かつてカンボジアにポル・ポト政権という政権があった。この政権下では、いろいろな説があるけれども、国民の3分の1が虐殺されたとも言われています。
島田 3分の1?
高村 数にして100万人~200万人くらい。信じられないでしょう。このポル・ポト政権が倒れた後、国連の監視団が入って、はじめて国会議員を選ぶ自由な選挙が行われたのが1993年。このときの投票率は、なんと89%。
島田 ほとんどの人が投票に行っていたんですね。
高村 それも、日本のように誰もが読み書きができる社会ではありません。ポル・ポト政権ではとくにインテリが弾圧・虐殺の標的にされたこともあって、字が読めない、字が書けないという人が多かった。そこで、それぞれの政党のシンボルマークを決めて、それを投票用紙に印刷する。読み書きができない人でも、投票したい政党を選べるようにしたわけです。そういう状況のなかで、89%もの投票率があった。これはなにを意味しているのか。「もう恐ろしい政治は嫌だ」とカンボジアの人たちは身にしみて感じたんです。
島田 なるほど。
高村 カンボジアほどじゃないけれども、日本でも同じようなことがありました。戦後初、1946年に行われた衆議院選挙の投票率は72%です。
島田 今に比べると高いですね。
高村 戦争によってアジア諸国にも迷惑をかけたけれども、なによりも日本人が300万人も死んでいるんですよ、あの戦争でね。「もう戦争は嫌だ」「戦争をやるような政治は嫌だ」ということで、日本人は選挙に行ったわけです。つまり、政治を悪くしないためにも選挙に行ったということ。
島田 なるほど。
高村 それともう一つは、「国民の国民による国民のための政治」という意識が有権者、つまり国民の側にないと、政治家のなかに勘違いする人が出てくるでしょう。
島田 政治家の政治家による政治家のための政治(笑)。
高村 そこまで思う人はそんなに多くないと思うけれども、やはりそういう勘違いをする人も出てくるんですよ。だから、そういう勘違いをしている人に鉄槌を下すためにも、やっぱり選挙には行ってほしいですね。ところで、民主政治って多数決原理じゃないですか。多数決はいつも正しいと思いますか?
島田 そうともかぎらないと思います。
高村 そうですよね。多数派がいつも正しいとはかぎらないんですよ。かぎらないけれども、先進国はすべて多数決原理で政治をやっていますよね。なぜでしょうか。
島田 いつも正しいとはかぎらないけど、比較的正しいというか。
高村 なぜ、比較的正しいんだろう。
島田 ……?
高村 多数の人を、一時的に騙すことはできるんですよ。少数の人を長く騙すこともできます。だけど、多数の人を長く騙すことはできないんだ。つまり、多数決原理というのは間違えることもたしかにあるけれども、あまりひどい政治が長く続くということはない。長い目で見ると、比較的正しいということになる。
島田 なるほど。それで先進国では多数決原理を採用しているんですね。
高村 だから、長い目で見て比較的いい政治が行われるという多数決原理の利点を活かすためには、投票にもずうっと行くということが必要です。
島田 そうなんですね。私も20歳になってからは、毎回行っています。
高村 ありがとう。