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松下幸之助から学んだ経営者の条件~佐久間曻二(元・松下電器産業副社長)

松下幸之助経営塾講義再録

2016年04月12日 公開 2022年08月18日 更新

松下幸之助から学んだ経営者の条件~佐久間曻二(元・松下電器産業副社長)

『PHP松下幸之助塾』2013年5・6月号より

「松下幸之助経営塾」は、経営者を対象にした松下幸之助の経営哲学を学ぶための公開セミナー。一流の講師陣による講話も魅力の1つで、『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』では、その要旨を抄録しています。今回の講師は、佐久間曻二氏。ここでは、「経営理念を売ってくれ」と題された記事の冒頭部分をおとどけします。かつて松下電器(現パナソニック)の副社長から経営不振の衛星放送会社WOWOWの社長に転身し、短期間で再建を成し遂げた佐久間氏。松下幸之助との思い出を軸に、経営論を語ります。

 

若い自分の意見で即断に驚き

 私は松下電器に37年間、勤めました。なかでも、松下幸之助翁にお会いできたことが、最大の幸運でした。そこで今回は主に、松下幸之助翁やその薫陶を受けた諸先輩方から学んだことをお話しいたします。ただ、以降は、松下幸之助翁のことを「相談役」と呼ばせていただきます。私にとっては「相談役」が、松下電器時代から自然な呼び方になっているからです。

 さて、私が相談役に直接お会いする機会は3度ありました。最初は、企画本部に所属していた入社4年目の1960年、三役会議に出席して報告したときのことです。三役会議とは、松下電器の最高意思決定機関で、当時社長の相談役、それから松下正治副社長、髙橋荒太郎専務のお三方が集まって、合議でトップの方針を決めていました。

 どうして若い平社員の私が、三役会議で報告することになったのか。

 相談役が、新聞に掲載されていたあるミシンメーカーの貸借対照表が気になったそうです。売上や資本の規模に比べて現金保有高がものすごく高い。相談役はその秘密を知りたくなり、私の部署が調べることになりました。

 すると、そのミシンメーカーには予約販売制度というのがあることが分かった。高価なミシンを広く販売するために考案された制度でした。当時の嫁入り道具で最も人気の高かったのがミシンでしたが、高額商品のため簡単には購入できません。そこでメーカーは、若い女性がコツコツと積み立てて、結婚する際にその積立金でミシンを購入できるようにしたのです。現金保有高が高いのは、その積立金によるものだったようです。

 このことを報告すると今度は、「同じような販売制度を松下でもできないか検討してくれ」という指令が相談役から降りてきました。

 ところが、よく調べてみると、予約販売制度には問題が多いらしい。たとえば、セールスの人が「いつでもキャンセル可能。その際はお金を返す」と言っていたのに、積み立てをやめようと会社に電話をかけると、そのセールスマンは退社してもういない。すると、別の社員から契約書を見せられ、「返金しないと書いてある」と言われたりする。こんなクレームが、消費者相談の機関に寄せられていたそうです。

 このようなトラブルは、「お客様大事」の松下電器にとってあってはならないこと。それに、松下はそもそも、「企業は社会の公器」という理念を標榜しています。社会倫理の観点からも望ましくありませんでした。

 また、予約販売制度は一見、魅力的にみえますが、中長期的には経営の不安材料になりかねない。第一に、近い将来、クレジットの制度が定着する。第二に、今は高価な商品も、普及すれば価格が下落する。第三に、時代とともに嫁入り道具は変わる。第四に、国民の所得が増える。このようなことが現実に起これば、入金が減り、出金ばかりが増えて、予約販売制度そのものが成立しなくなります。

 私は、「松下電器は本来の販売制度できちんと商売したほうがよい」と企画本部の担当常務に報告しました。ところが、これで役目は終えたと思っていたら、上司が私に、「三役会議で説明しろ」という。相談役相手に説明なんて、さすがにおじけづきました。

 しかし、実際に会ってみると、ほんとうに話しやすく、なんでもしゃべってしまいたくなるような雰囲気をもった方でした。それで私は、「予約販売制度はやめたほうがよい」と申し上げたのです。すると相談役が、「きみ、それはみずから確かめたことなのか」ときかれたので、私は「自分で確かめています」と答え、ひとまず納得していただきました。

 それでもまだ、「きみね、あの会社は一流会社やろ。一流会社がやってることが、なんであかんねん」と言われる。私は、「ほかの一流会社がやっているから松下がマネをしていいということにはなりません。松下にふさわしいかどうかという視点でお考えいただきたい」とはっきり述べました。怖いもの知らずの青二才でしたね。しっかり調べたとはいえ、えらそうな発言をしてしまったものです。

 ところが驚いたことに、相談役が「ああそうか。ほなやめよう」と、その場で結論を出されたのです。こういうときは、「そうか、ご苦労だった。あとはわれわれが検討するから」とでも言うのが普通でしょう。しかし相談役は、入社4年目の平社員の報告であっても、しっかり聞いて、それが正しいと理解したら即断される。「やっぱりすごいな。この方のために仕事をがんばろう」と思いました。

 青二才が言うことでも即断できるというのは、カンが非常に鋭いのでしょう。相談役は、経営者の条件としていちばん大事なのはカンだと言っておられる。考えて、考えて、考えぬいてひらめくのがカン。それを大切にしなければいけないということです。

佐久間曻二 (さくま・しょうじ)
1931年新潟県生まれ。1954年大阪市立大学経済学部卒業。1956年同大学大学院経営学研究科修了、松下電器産業(現パナソニック)入社。1983 年同社取締役・経営企画室長。1986年同社専務取締役。1987年同社取締役副社長。1993年日本衛星放送(現WOWOW)代表取締役社長。2002年同社代表取締役会長兼社長(2003年から会長専任)。2006年同社相談役。2011年から同社名誉顧問、日本テレネット取締役相談役。著書に『知恵・情熱・意志の経営』(ダイヤモンド社)など。

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