ローカル企業の常識を疑え!「地方経済に未来はない」という俗説
2016年05月01日 公開 2022年10月27日 更新
域外から稼げなければ成長しない? 世界経済に域外経済は存在しない
もう1つ、ありがちな議論に、「地域経済は人口減少で縮む一方なので、経済と企業を再生するには域外から稼ぐ産業を作り、逆に域外に富が流出している産業を域内化すべきだ」というものがある。言い換えれば、製造業である、あるいは観光資源があるなど、域外経済圏から経常収支を稼げる産業や企業でないと成長できないという話だ。
しかし、よく考えてほしい。世界経済は過去100年で約40倍、この30年間でも年率3~5%くらいのペースで成長した。その世界経済は月や火星の「域外」経済圏から経常収支を稼いできただろうか?
答えはまったくノーである。世界という単位では完全に内部循環経済しかなく、その中でも世界経済はしっかりと成長してきたのである。域外経済から稼げないと成長しないという発想は、高度成長期の加工貿易立国や、さらにはその昔の重商主義から抜け出せない発想であり、重商主義を批判して自由貿易論を唱えたあのアダム・スミスが聞いたら、「21世紀になってもそんな議論をしているのか」と苦笑いするに違いない。
大事なことはその「稼ぎ」の出元が域外か、域内かに関係なく、自らの絶対優位、比較優位を見極めてちゃんと生産性の高い仕事をし、しっかりと収益を上げ、その上昇分を賃金と将来投資に回す好循環を創り出すことである。域内でやっても生産性が上がらない構造にある財やサービスを、より生産性の高い隣の地域から「輸入」するのをやめて、無理やり域内で生産しても、企業は成長せず、賃金は上がらず、地域経済も成長しない。
もちろん域内だけでなく、域外からも稼げるということは、対象市場が広く大きいことを意味しているので、悪いことではない。しかし、より本質的に大事なことは、当該地域の優位性、当該地域の企業としての優位性を徹底的に突き詰めて、正しいビジネスモデル、経営モデルを選択することなのだ。我々の経験では、この選択ができていないローカル企業はたくさん存在する。地域経済の縮小に怯えるあまり、何の優位性もない隣県、さらには東京、世界へと出ていって、赤字と不良債権のヤマを作って倒産する企業は少なくない。そうした間違いを正すだけでも、ローカル企業の業績は大幅に改善する。
グローバル化は地域経済への逆風?
よく似た議論で、「グローバル化やTPPの発足で、ローカル経済の空洞化がさらに加速して、地域の企業は苦しくなる」という愚痴というか、言い訳もよく耳にする。
これまた先述のGL本、さらにはその前に我々が著した『IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ』(PHP研究所)で詳しく述べているが、ローカル産業の中心となっているサービス産業の多くは、いわゆる分散型の経済性を有する産業で、地域内、商圏内の密度、密着度を高めることが競争に勝つ第一条件である。言い換えれば、グローバル化が進んでもあまり影響を受けないタイプの産業なのだ。
逆にグローバル製造業の大規模工場の誘致が、必ずしも地域経済の持続的成長に貢献してこなかったという事実が示すように、こうした「貿易財」を扱うG型産業は、世界中に最適な立地を求めてその機能を移動させられるし、移動していかないと競争に勝ち残れないのである。
だから、そうした産業に地域の経済や企業の再生を賭けるのは、非常に大きなリスクを伴う。ここでも世界の中で、その場所で経済活動を行なう持続的な優位性が際立っている必要性があるが、そこまでの産業と地域の組み合わせ、たとえば小松市とコマツに代表される建機産業のようなケースは、そう簡単には成り立たない。
そのため、ほとんどの場合、グローバル化の進展は必ずしも地域の経済や企業にとって逆風ではないし、円安などでグローバル経済圏が元気になっても、それがすんなりと地域企業の順風になるわけでもないのだ。
「インバウンド観光」などがその典型だが、地域と企業の粘り強い経営努力なくしては、順風はつかめない。ここでもまた、その順風をつかめていないローカル企業がたくさんいるということは、そのまま伸びシロ、成長のチャンスがあるということを意味する。