ローカル企業の常識を疑え!「地方経済に未来はない」という俗説
2016年05月01日 公開 2022年10月27日 更新
※本稿はPHPビジネス新書『IGPI流ローカル企業復活のリアル・ノウハウ』より一部抜粋したものです。
減少し続ける人口……、地域経済に未来はない?
少子高齢化に起因する人口減少社会では、生産労働人口が先に減少する一方で、高齢者が退職後、基本的に生産せずにもっぱら消費する側に回るので、構造的な人手不足が起きる。しかも、この人手不足は出生率が2を超えてしばらく経たない限り解消しない。すなわち数十年単位で続くことになる。企業経営上、需要に対して供給力、とくに労働力が不足している状況は、相対的に「景気がよい」状態であり、経営的な打ち手の自由度は非常に大きい。我が国における企業経営上、もっともストレスの大きい人員整理の問題を心配せずに、事業の選択と捨象や合理化投資、IT投資ができるのである。そうしたさまざまな工夫が可能ということは、利益成長の機会を捉える確率を高め、ひいてはいろいろな売上成長の機会をも生み出す。これはまさに東北の地方バス会社の再建で我々が実体験してきたことである。
そもそも過去100年で世界全体の経済規模は約40倍になったといわれているが、その間、世界の人口は4倍程度にしかなっておらず、残りの10倍分はイノベーションによって生産性が高まったことによるものだ。生産性とは生産付加価値を投入資源(資本と労働)で割った概念なので、要は新たな付加価値需要を生み出したことと、それをより効率的に供給する方法を考え出したということが、最大の経済成長ドライバーだった。歴史的な事実として、人口要因よりも生産性要因のほうが効いてきたのである。
最近20年ほどの期間においても、米国やドイツと比べ、日本の成長率が顕著に低かった説明因子としては、人口因子よりも生産性因子のほうがはるかに効いている。この議論は地域経済においても本質的に変わることはない。域内の人口減少のせいで、そこで活動する企業に未来はないというのは間違いである。
むしろ競争という観点からは、人口減少によって「縮む」イメージがあるがゆえに、競争者が殺到するリスクは小さく、いわゆるブルーオーシャン的な状況を作りやすい。拙著『なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略』(GL本)でも触れたが、この傾向はローカルな世界のいわゆるL型産業(国内市場においてヒトがサービスを提供する非製造業を中心とした「ローカル経済圏の企業)においてより顕著である。
つまり、人口減少だからこそ、個々の企業においては、経営改革を進め、イノベーションを起こし、競争優位性を構築できるチャンスが大きく広がっているのだ。
ローカル企業は生産性が低く生き残れない?
一般にローカル経済圏の主役である非製造業や一次産業、そして中小企業は生産性が低いとされている。実際、データ的にも我が国のサービス産業の生産性、とくに賃金と大きな相関のある労働生産性は、国際比較、製造業比較の両面で低い。
だからローカル企業はダメなんだという議論が出てきがちだが、我々の経験則では、まったく逆である。生産性の低さが、その業種のすべての事業者にとって経済構造や競争市場構造から宿命的になってしまっている真の「構造不況業種」なら別だが、現実にはそんな業種は滅多にない。
むしろよく見ると、潜在能力の高い会社は少なくなく、そうした会社がちゃんと経営の改革・改善を進め、生産性と競争力を高める一方で、ダメな会社の退出、新陳代謝を進めれば、個別企業レベルでの持続的な収益成長可能性はさらに高くなる。
現状、生産性が低いということは、経営力が今ひとつなだけで、やりようによっては「伸びシロ」の大きな会社が、ローカル経済圏にはたくさん存在することを示唆している。
これは我々の経験則とも合致する。ローカル企業の現状の生産性が変わらない前提であれば、「だから明るい未来はない」「生き残りは難しい」となるが、我々の見立てでは、ローカル企業や中堅・中小企業の生産性の低さは、経営力の不足や経営人材の薄さに起因している場合が少なくないのだ。現状の生産性が低いからこそ、成長余地は大きいといえるのである。
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域外から稼げなければ成長しない? 世界経済に域外経済は存在しない