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会社を伸ばす後継社長の絶対条件とは?

2017年01月31日 公開

牟田太陽 《日本経営合理化協会専務理事》

 

筆者:牟田太陽
日本経営合理化協会専務理事。1972年東京生まれ。大学卒業後、アイルランドで和食レストランを創業。異境の厳しい環境で、創業の精神、強さ、忍耐、勇気、感謝の心を学ぶ。その経験と、事業を継ぐ決意とともに帰国、入協する。以来、社長専門の勉強会「実学の門」「無門塾」「後継社長塾」などを企画・運営。企画部長、事務局長を経て、2010年4月より現職。わが国屈指の社長専門コンサルタントで同協会理事長の牟田學から、事業経営の真髄と経営者としての心得について直接教えを受けた後継者である。2000社を超すオーナー社長や後継者と親密な関係を築く中で、社長や後継者が抱える様々な悩みや事業承継問題に精通。その親身かつ適切な指導には特に定評がある。

 

先代の否定は禁物。「自分の色」は徐々に発揮していけばいい

後継社長の中には、社長に就任した途端に、「待ってました」と会社のあらゆるところに手を加える人がいる。

オフィスを一新し、カンパニーロゴを変え、就業規則を変え、仕事のやり方を変え、組織を変え、理念や哲学さえも変えてしまう。「さぁ、心機一転、第二創業のつもりで頑張ろう!」と本人は張り切っているが、やる気が空回りするばかりで業績は上がらない。このようなことはないだろうか。

こういったとき、自社の業績が上がらないことを政治や経営環境のせいにする社長がいる。しかし、後継社長が社長に就任して会社の業績が落ちるのは、間違いなく社員のモチベーションが下がっているのが原因だ。

会社は「人」だ。人が考えて、人が企画をして、人がモノをつくり、人がモノを売って、そしてそれを買うのもまた人なのである。

社長が交代して業績が上がらないのは、間違いなくその流れのどこかに歪みができているのだ。「人の差が会社の差」だ。そんな状態ではライバル会社に勝てる訳がない。自分(自社)にも克てない(勝てない)者が、他人(他社)に勝つことなどできないからだ。

早急になんとかしなければ、いずれ会社はおかしくなってしまうだろう。

経営は原理原則が8割、時事的なモノが2割だ。その重要な原理原則の8割の中に、理念であったり、哲学であったり、思想であったり、人生観であったり、世界観などが入っている。

たとえば、自動車の分野はいま、ハイブリッドカーを経て、電気自動車へと向かっている。こういった場合はやむを得ず、時代の流れに対応するべく修正する場合がある。

しかし、普通は、先代が何十年もかけてつくり上げてきたモノを、次代の社長が就任して数年で簡単に変えられるものではないと私は考える。はやる気持ちもわかるが、そこは時間をかけていくべきだ。

特に、先代の社長の時代に雇用した社員たちは、先代の理念、哲学、思想に惚れ込んで入ってくる者が多い。変えたことによって反発が起きるのは当然のことだ。身に覚えのある後継社長は気をつけていただきたい。

時事的なモノが2割と述べたが、これはテクニック的なものだ。「原理原則が重要」とは誰もが知っていることだが、知りながらも経営用語におどらされたり、テクニックに走ってしまう後継社長が実に多い。

デリバティブ、社会保険料の見直し、固定資産の売却で特別損失をわざと出すことによって現金の留保……など、数字を動かすことによって会社の現金が増える。場合によっては億単位の現金が増えることがある。これを経験して「俺の実力だ」と勘違いしてしまう社長が多いのだ。

有名飲食店を営むある会社では、先代が購入したビルを二代目が売却しようとした。もし売却すれば売却損が出る。赤字となれば税金を払う必要がなくなるので、会社に現金が貯まる。二代目はそう考えたのだ。

しかし、結果的には売らなかった。息子として先代が大切にしていたビルを何となく売りにくかったのかもしれない。その後、先代は亡くなったが、ビルはそのまま維持することとなった。

そんな矢先、東日本大震災が起こる。それまで順調だった飲食店に人が入らなくなった。売り上げが3割落ち、このままでは社員たちに給料が払えなくなってしまう……。背筋に冷たいものが走ったという。

そのとき、会社の大ピンチを救ってくれたのが、ビルのテナント料だった。落ちた売り上げの全てとは言えないが、社員の給料を変わらず支払うことができた。売らなかったことにより、震災で売り上げが立たなかった時期を乗り越えることができたのだった。

経営とは、こういった選択をしなければならない場面が多い。どちらが「正しい」とか「正しくない」というのは存在しない。どちらも経営者の判断である。そこには経営に対する思想や哲学が存在する。

この社長から、私はいい話を聞いた。

「もし、ビルを売却していたらどうなっていただろうか。父親と自分の間には、決定的ではないにしろ溝ができていたかもしれないし、父親が亡くなった後に起きた震災で、後悔をしたかもしれない。

あの頃の自分は、父親が『どんぶり勘定』でやってきた会社の内情を見て愕然としていた。社員数も急激に増えてきているのに、社内には事業発展計画書もなく、戦略・戦術、今年1年の目標数字どころか、規定すら曖昧だった。少しでも会社の体を成すために自分は全力で仕事をしていた。仕事をしているつもりになっていた。

しかし、自分が全力でやっていたと思っていたことの中には、本来一番重要な『お客様』であったり、『もっと商品を良くしたい』という考えであったり、『社員とその家族の幸福』ということが少しもなかった。

そのことに震災で気がついた。なぜ、父親がそこまでしてビルを購入しようとしていたのか、社員の給料が払えることにホッとしたときにわかったのだ。大学も出ていない父親に対して、どこか馬鹿にしていた自分にも気がついた。

誰よりも会社や社員やその家族のことを想っていたのは父親なのだと気がついたときに、自分はまだまだ父親の足元にも及ばないと感じた。自分は、経営のもっともっと根底にあるものを学ばなければならないと感じた」

そう話してくれた社長の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

最初から理念や、哲学や、思想がある人などいない。最初はお金のためであったり家族を食べさせるためであったり単純な理由が多いからだ。

仕事を通してお客様から叱られたり、商品が売れない辛い体験を通して学ぶのだ。もっとお客様のお役に立つにはどうしたらいいのか、もっといい商品にするためにはどうしたらいいのか考えるようになって、初めて身についてくるのだ。そういったモノが「経営の原理原則」の根底にあるのだ。

※本記事はPHP研究所刊、牟田太陽著『後継社長の実務と戦略』より一部を抜粋編集したものです。

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