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唐池恒二×水戸岡鋭治 ななつ星in九州を生み出した「自分マーケティング」

『衆知』編集部

2016年12月14日 公開 2023年01月19日 更新


写真左・水戸岡鋭治氏、右・唐池恒二氏
(撮影:河本純一)

 

世を風靡するヒットを数々生み出した異才対談

鉄道会社にありながら、船舶事業の任を担ったビジネスマン。頭の中に多彩なデザインプランを詰め込んだイラストレーターにして駆け出しのデザイナー。分野も性格も全く異なる2人の出会いは、今から27年前に遡る。以来、互いの持ち味を活かし、列車はもちろん、船、ホテル、駅、まちづくりと、多岐にわたってヒットを次々と生み出してきた。日本初の豪華列車「ななつ星in九州」も、その傑作の1つである。絶妙なコンビネーションを見せる唐池氏と水戸岡氏は、いかなる流儀で世を風靡してきたのか。意外なことに「メディア上では初めての対談」という両氏が、互いの「自分流」をシンクロさせる。
(取材・構成:染川宣大)

唐池恒二(からいけ・こうじ)
九州旅客鉄道株式会社(JR九州)会長

1953年大阪府生まれ。鉄道会社にありながら船舶事業、外食産業、まちづくり事業において鮮やかな成功を収める。本業の鉄道事業においても、観光特別列車の新たなスタイルを示したD&S(デザイン&ストーリー)列車、そして日本初のクルーズトレイン「ななつ星in九州」でヒットを連発。今年10月の株式上場に向けて、同社経営陣とともに指揮を執った。近著に『鉄客商売』(PHP研究所刊)。

水戸岡鋭治(みとおか・えいじ)
インダストリアルデザイナー、イラストレーター
1947年岡山県生まれ。職人的かつアーティスティックな描画力に加え、国内外における豊富なデザインの経験量に裏打ちされたプランニングと設計の独創性はまさに唯一無二。JR九州の船舶、D&S列車、博多・大分両駅、「ななつ星in九州」「或る列車」と九州の新たな魅力を示す原動力となるようなデザインを次々と展開した。ブルネル賞、毎日デザイン賞、菊池寛賞など受賞歴多数。

 

培った知識と経験でプロと対峙する

水戸岡 「ななつ星」の時は、唐池さんに信頼いただいていることを特に実感しました。締切のギリギリまでデザインに悩んでいましたから、なんとなくこういう感じです、というものですら全くお見せできなかった。もしも「どういうふうになるの?」「どうなってるの?」と中途で突っ込まれたり、あるいはほかの組織と同じように「重役の前で説明してください」なんて注文されていたりしたら、私はあの仕事をやり遂げることはできなかったと思います。

唐池 あの時は運行開始1年前に車両の大まかなデザインを見せられて、その後は3枚の絵が来ただけでしたね。結局、私が車内の全貌をこの目で確認したのは、メディア発表の1日前でした。職人たちも全貌は知ることなく、それぞれの持ち場の製作を進めていたので、完成するまで、全体のイメージは水戸岡さんの頭の中にしかありませんでした。

水戸岡 それが実は、私にもわからないところがありました。職人たちはその日の仕事が終わると厳重に養生をしてしまうから、すべて見ることができなかったのです。

だから、私も唐池さんと同じくメディア発表の一日前に初めて目(ま)の当たりにしたところがあったわけです。「おぉ、こんな感じになったのか」と(笑)。

唐池 いやいや、そうは言いながらも、水戸岡さんは職人さんとその仕事のことを熟知していたのです。新しい列車運行にかかわるあらゆる分野の皆さんと、同じレベルか、あるいはそれ以上の知識と語彙でもって、打ち合わせをされている姿を何度も目の当たりにしてきました。

水戸岡 それはどんなデザインの仕事をする上でも大事なことですね。例えば、制服のデザインをするなら、織物の素材、染色、織り方、文様など全般にわたる知識が必要になります。私は昔から石津謙介さんのつくったブランド「VAN」や雑誌『メンズクラブ』の大ファンでしたから、そこから入って織物全般の知識を身につけました。

ほかの分野においても同様で、子供の頃から培い、さらに大人になって積み上げた知識と経験を総動員して、プロと相対するわけです。私のような幅広いジャンルを手がけるデザイナーは、時として個人的な経験値や育んだ作法で、プロすら倒さなくてはならない場面が折々で訪れるものです。

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