五能線 「奇跡のローカル線」を生んだ最強の現場力
2016年07月20日 公開 2017年01月20日 更新
『五能線物語 「奇跡のローカル線」を生んだ最強の現場力』より一部抜粋編集
「運転士さん、ありがとうございました」
ある夏の夕暮れ時、五能線の快速列車「リゾートしらかみ」4号は、満席の乗客を乗せ、あきた白神駅を静かに発車した。
この辺りは、風光明媚な景色を誇る五能線の中でも、圧倒的な絶景が楽しめるスポットだ。
「リゾートしらかみ」の窓は、雄大な景色を楽しむために大きな窓へと改造されている。座席もゆったりと設計されていて、快速列車とは思えないほど快適だ。
穏やかな夏の夕暮れ。ちょうど夕日が沈む頃だった。
列車が鹿の浦付近にさしかかった時、日本海の水平線の向こうに、燃えるような夕日が沈もうとしていた。
車内から「うわー」という大きな歓声が上がった。乗客たちはこの絶景を楽しみにこの列車に乗っていた。
列車はゆっくりと速度を落とした。止まりそうなほどに減速した。
そのわずかな時間、乗客たちは沈む夕日の余韻を楽しみ、目に焼き付けた。カメラのシャッターを押す音があちらこちらで響いた。
ひとりの女性が立ち上がり、運転席に向かって声をかけた。
「運転士さん、ありがとうございました」
すると、他の乗客たちも立ち上がり、割れんばかりの拍手を送った。
運転士はその乗客の声と拍手を背中で受け止めた。そして、前を真っ直ぐ見据えたまま、軽く頭を下げた。
列車は旅を満喫する楽しそうな会話と笑い声で充ち溢れていた。
* * *
五能線を走る快速列車「リゾートしらかみ」は、沿線にある何ヶ所かの絶景ポイントで速度を落として走る「サービス徐行」を行っている。このサービスは観光客に五能線の絶景を少しでもゆっくり楽しんでもらいたいという運転士たちの思いから始まった。そして、今では定番サービスとなり、好評を博している。このエピソードは、「リゾートしらかみ」の運転士、佐々木雅義が社内の社員意見発表会で発表した自身の経験談である。