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生き方

人はなぜ、そんなに失敗を恐れるのか

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2017年02月07日 公開 2023年07月26日 更新

間違った想像の世界に迷い込まないために

私たちは最初の体験が心にしみつく。

「あるものに初めて出くわしたときにある心構え(マインドセット)を作り上げて、次に同じものに再度出くわすとその心のあり方(マインドセット)に固執するというものがある。そのような心のあり方(マインドセット)はあまり考えないうちに作り上げられることから、私たちは『とらわれ』と呼んでいる(4 註)」

私たちには、一度あることを体験すると、二度目に同じ状況に遭遇したときには、最初の体験の感じ方に固執するようになるという心の傾向がある。

こうした傾向は、熟考する前に形成されてしまうものであるから、ハーヴァード大学のエレン・ランガー教授は「とらわれ」と呼んでいるのである(56註)。

一度腐ったリンゴを食べると、腐った味をリンゴと思う。

人は、事実の認識の仕方によって、その事実に影響されるのだが、その認識のされ方が極めていい加減なのである。

その人のそれまでの人生によって認識の仕方は違ってくる。それで同じ事実が違って認識される。

怖ろしいのは、「想像力の間違った使い方をしていると、悩みはますますやっかいなものになります(57註)」。

悩みの原因の一つは、間違った想像の世界に迷い込むことである。

失敗を怖れる人は、想像力の間違った使い方で、最も悪い悩みに苦しんでいる。

悩んでいる人は、どうでもいいことに目を向けて色々と悩んでいる。

失敗を怖れる人には「自分にできることをすれば良いという単純さ」がない。

「どうでもいいことばかりに目を向け、いちばん重要なところは放っておくということに、多くの不満の原因があります(5 註)」

失敗を怖れる人は、今自分は何に目を向けているかを考えてみることであろう。

※文中註
1:内沼幸雄『対人恐怖の人間学』弘文堂、1977年6月、131頁
2:デヴィッド・シーベリー『問題は解決できる』三笠書房、1984年1月、82頁
3:Marlane Miller, Brain styles, Simon & Shuster, Inc., 1997. 『ブレイン・スタイル』講談社、1998年1月
4:Ellen J. Langer, Mindfulness, Da Capo Press, 1989,加藤諦三訳『心の「とらわれ」にサヨナラする心理学』PHP研究所、2009年10月2日、47-48頁
5:premature cognitive commitments. P.47

※本記事は、加藤諦三著『失敗を超えることで人生は開ける』より、その一部を抜粋編集したものです。

【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

 

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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