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星野リゾート 「勝てるおもてなし」の要諦は「こだわり」にあり

マネジメント誌「衆知」

2017年04月13日 公開 2017年04月13日 更新

星野リゾート 「勝てるおもてなし」の要諦は「こだわり」にあり

現場の創意と地域の魅力を引き出す星野リゾートメソッド

日本を代表するリゾート運営会社・星野リゾート。個性的な施設を全国各地に展開し、上質のサービスや他では味わえない感動を生み出している。代表の星野氏が重視するのは、顧客満足と利益を両立させる仕組みづくり。そして、日本らしさにもとづく独自メソッドの実践である。はたして、外資系ホテルチェーンに対抗しうる「日本のおもてなし」の真髄とは。

星野佳路(ほしの・よしはる)
星野リゾート代表。1960年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。シカゴにて2年間、新ホテルの開発業務に携わる。’91年、星野温泉(現・星野リゾート)代表取締役社長に就任。リゾート運営に特化し、顧客満足と利益を両立する経営を実現している。

取材・構成:平林謙治

 

もてなす側のこだわりが感動を生む

マスター(主人)とサーバント(使用人)の文化を背景とする欧米のホテルサービスは、お客様の要望に応えるのが基本です。お客様の声を聞き、ニーズに合ったサービスを早く、正確に提供する仕組みづくりにかけては、確かに優れています。スケールメリットで劣る日本の「おもてなし」が同じ土俵で戦おうとすれば、勝ち目は薄いでしょう。

お客様はどのホテルにも同じ要望を出しますから、それを正しく聞いて、正しく応えようとすればするほど、サービス内容に差がなくなってしまうのは必然です。結果、顧客満足度のハードルだけが際限なく上がり続け、体力勝負の消耗戦になっていく――これが、ホテル業界のコモディティ化(品質に差がなくなること)の現状です。

誤解を恐れずに言えば、われわれはお客様の〝言いなり〟になるつもりはありません。真の顧客満足が、必ずしも顧客ニーズから生まれるとは限らないからです。むしろニーズにないサービス、われわれ自身のこだわりを逆にこちらから提案していくサービスこそが「世界で勝つためのおもてなし」だと、私は考えています。

例えば「星のや軽井沢」では、テレビをなくしました。軽井沢では軽井沢の自然を、鳥のさえずりや川のせせらぎを満喫していただきたい。顧客ニーズ云々ではなく、それがわれわれのこだわりだからです。

当初はクレームも相当ありました。ある夏のお盆前後に一週間予約されたお客様がいて、来てみたらテレビがない。「一週間も泊まるのにどうするんだ!」と。他のホテルに移ろうと思っても、ハイシーズンで、近隣はどこも満室だったのです。

そのお客様は怒りが収まらないまま仕方なく滞在されていたのですが、それが三日もすると、「最高にストレスフリーですね!」とおっしゃるようになって。今ではすっかりリピーターになっていただいています。

この地を訪れたら、ぜひこういうふうに過ごしていただきたいという、もてなす側のこだわり。それをしっかりと伝えて、実際に体験していただくことが、お客様自身も気づいていなかった心の奥底の琴線に触れ、予想もしない感動につながっていくのです。

地方へ行くと、「お口に合うかどうかわかりませんが」と、土地の人しか知らない名物を奨められて、思わぬ〝口福〟にめぐりあうことがあるでしょう?ああいう感覚に近い。要は、昔ながらのお国自慢、郷土自慢です。もちろんわれわれのスタッフに、その土地に根付くコミュニケーション能力や、地域に固有の食・文化・歴史などを解する文化度がないと、こうした「こだわりのおもてなし」はできません。

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