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松下幸之助創業者に学んだこと~大坪文雄・パナソニック特別顧問、前社長

マネジメント誌「衆知」

2017年04月05日 公開 2024年12月16日 更新

松下幸之助創業者に学んだこと~大坪文雄・パナソニック特別顧問、前社長

取材構成:森末祐二

衆知を集めて大改革を断行

海外で知った創業者の偉大さ

松下幸之助創業者の存在の大きさを感じたエピソードを一つ紹介したいと思います。

1989年1月にシンガポールに出向し、その年の四月に創業者が亡くなりました。すると間もなく、現地でオーディオ部品を納入してくれている現地メーカーの経営者が、4、5人ほど連れだって会社を訪れ、こう言いました。

「松下幸之助さんが亡くなられたと聞きました。日本ではきっと社葬が行なわれると思います。ぜひ私たちを社葬に参加させてください。もちろん旅費などはすべて自分たちで負担します」

私は非常に驚き、なぜそうしたいのかを尋ねました。すると、以前から『PHP』誌や創業者の本を読むなどして、とても影響を受けていたとのこと。なかには創業者の言葉で発奮して起業した人や、新たに工場を増設したという人までいたのです。

私は本社に打診した上で、彼らとともに帰国して社葬に参加しました。彼らは、雨の中、カムコーダ(ビデオカメラ)で少しでも社葬の様子を撮ろうと必死でした。自社の社員たちにも見せたいとの思いからです。海外の人々にまで影響を与えていた創業者の偉大さを改めて実感したのです。

 

難局を乗り越え発展の基礎を築く

その後AVC社(現AVCネットワークス社)の社長などを経て、私は2006年6月に、「モノづくり立社」という方針を掲げて松下電器の社長となりました。それから会長に就任するまでの六年間、私は苦難の道を歩むこととなります。この大きな苦難の中で、私を励まし、心底奮い立たせてくれた創業者の言葉を紹介します。

「かつてない難局は、かつてない発展の基礎である」

創業者は、世界恐慌、第二次世界大戦と戦後の苦境、熱海会談につながった経営危機など、幾多の難局を乗り越え、そのたびごとに松下電器を成長に導いてきました。いずれも「かつてない難局」だったはずであり、それを打開した時、「かつてない発展の基礎」が構築されたのです。

私の社長時代には、2008年秋のリーマンショックや、2011年3月の東日本大震災といった難局が訪れました。もちろん外的要因に私自身の経営責任を転嫁しようというつもりはありません。ただ、そういう厳しい経営環境の中で、次の時代の基礎となる大きな改革に取り組んだのです。

改革の柱は、「松下電器産業」から「パナソニック」への社名変更、およびそれに伴うブランド名のパナソニックへの統合、次に三洋電機および松下電工の完全子会社化による経営統合でした。

社名・ブランド名について言えば、世界を市場として事業展開していく上で、われわれのグループは松下電器、ナショナル、パナソニックという三つのブランドに分散していました。そのためブランドランキングにおいて、会社の規模にそぐわない順位に低迷していたという状況があります。パナソニックにすべてを統一することで、ランキングの上昇はもちろん、新興国に進出する際のブランド戦略においても有利に働きます。

旧名の在庫処理に数十億円かかるとか、店の看板をすべてかけ替えないといけないなど、種々の問題がありました。これらについては、ショップ店のご協力も得ながら、多くの人たちの力で無事に乗り切り、結果としてうまくいったのではないかと考えています。

これらの大改革を進める間、様々な困難もご批判も、あるいは諸先輩の応援もありましたが、当時の状況が「かつてない難局」であったのは確かです。私は、この時こそ「かつてない発展の基礎」を築かなければならないと信じ、全身全霊を打ち込んで、改革に取り組みました。

 

世界の長寿企業への道

最後に、来たる創業百周年に向けて、私の思いを述べておきたいと思います。

日本に長寿企業が多いのはよく知られています。諸説ありますが、200年以上の長寿企業は世界に5600社くらいあり、そのうち3000社以上が日本の企業だそうです。つまり世界で断トツに長寿企業が多い国だということです。これについて韓国銀行が、日本の長寿企業には次の6つの特徴があるという分析結果を公表しています。

1)社会が安定している
2)本業を重視している
3)保守的な経営を進めている
4)信頼の経営を心がけている
5)共栄の思想を持っている
6)職人気質を尊ぶ風土がある

1)の社会が安定しているというのは、世界最古といわれる日本国の歴史の中で一度も異民族に支配されたことがないという意味です。また3)の保守的経営とは、自社の強みを理解し、それを最大限に生かしているという意味です。

もうお気づきのことと思います。これらはすべて、創業者が掲げてきた経営理念と同じであり、パナソニックの伝統そのものといっても過言ではないでしょう。つまり、今後も創業者の理念を守り続ける限り、パナソニックは次の百年も必ず勝ち残れるということです。

次代を担う皆さんは、松下幸之助など偉大な先人の経験や言葉を 学び、それを糧として一層成長されることを心から願っております。

 

著者紹介

大坪文雄(おおつぼ・ふみお)

パナソニック特別顧問、元社長

1945年、大阪府生まれ。関西大学大学院工学研究科機械工学専攻修了後、’71年に松下電器産業(現パナソニック)に入社。オーディオ・ビデオ本部新規事業開発室開発工場長、シンガポール松下無線機器社長、オーディオ事業部長、AVC社社長、松下電器専務などを経て、2006年に社長就任。社名変更、三洋電機・松下電工との経営統合を推進。2012年に会長となり、翌2013年から特別顧問。

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