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見えていない答えに、それと気づかせる法

岡田尊司(精神科医)

2011年11月08日 公開 2022年12月26日 更新

見えていない答えに、それと気づかせる法

本人が真剣に悩んでいることでも、他人はなかなか理解することが難しい。それは自分や周囲の状況について知っているのは、誰よりも本人であるからであり、自身だけが問題の答えにたどり着けるからである。しかし対話によって、その行為を手助けすることができると精神科医・岡田尊司氏は語る。同氏が提唱する、見えていない答えにそれと気づかせる方法「解決志向アプローチ」とは何か。

※本稿は、岡田尊司著『人を動かす対話術』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

問題を解決するとはどういうことか

具体的な方法を見ていく前に、そもそも問題を解決するとはどういうことなのかを考えておくことは有益だろう。人はなぜ悩みや対立や困難な課題にぶつかり、そうした問題を解決することができるのか。問題とは何か、問題を解決するとはどういうことなのか。

まず単純化した例として、三角形の証明問題を考えてみよう。なぜ、それが問題になるのだろうか。なぜ、問題を解くことができるのだろうか。

三角形の証明問題が問題となるのは、解決方法がすぐには見通せないからである。しかし、補助線を一本引くだけで方法が見えてきたりする。つまり問題を解くことは、それが見通せる視点を手に入れるということだと言える。

幾何学の訓練を積んだ人は、一瞬でその視点にたどり着けるので答えが見えるのである。ある意味、答えはすでに存在しているのであり、ただそれが見えるか見えないかだとも言える。そうでなければ、そもそも問題を解くことはできないだろう。

もちろん、人生の問題は幾何学の問題よりずっと複雑で、答えも一つとは限らない。しかし、それを解くことができる人も大勢いる。その人には答えが見えるようになったからだ。しかし、解けない人には見えない。見えるか見えないかなのである。

幾何学の問題であれば、その人には答えが見えなくても、幾何学の得意な人を介して見えてくることもあるだろう。ところが人生の問題となると、他の人が代わりに見ることはできない。その人にしか見えないのである。なぜなら、問題の答えはその人しか知らないからである。

自分や周囲の状況について知っているのは、誰よりも本人であり、問題の答えも本人の中にあるからだ。それが、さまざまな雑多なものにうずもれて気づけなくなっているだけなのである。目の前にあっても見えていないだけなのである。解決志向アプローチとは、見えていない答えに、それと気づかせる方法である。

 

迷路を出口からたどる

解決志向アプローチが、なぜ短期間で解決にたどり着きやすいかと言えば、それは迷路の問題を出口からたどるようなものだからと言えるかもしれない。

迷路はたいてい入り口からたどると、何度も行き止まりにはまり込むように作られているが、逆からたどると、ほとんど一本道だったりする。人生の問題もこんな迷路によく似ているのだ。

問題を現在の視点から見ると、錯綜する枝道に注意を撹乱されて、なかなか進むべき道が見えてこない。しかし、未来に視点を移してそこから眺めてみると、答えが一目瞭然になったりする。一番肝心なのは何かという本筋のところがはっきりするからだろう。

言い換えれば、常にゴールから問題を考えるということだ。その考え方を、ディ・シェイザーは次のように述べている。

「解決の扉に通じるもっとも効果的な方法は、問題が解決されたときに、クライエントの行動がどのように違ってくるか、それまでと違うどんなことが起きるかをイメージし、有益な変化を予想することである」(de Shazer "Keys to Solution in brief therapy"より)

つまり、問題を解決する一番の近道は、間題が解決したらどうなるかを思い描き、その状態のとき何が変わっているかを明確にすることだというのである。それは、問題自体の原因を見つけ出してそれを解決するという従来の問題解決の方法とはまったく異なっている。

ディ・シェイザーは、そのプロセスを解決構築(solution construction)と呼んだ。そして、問題解決そのものを目指すよりも解決構築を目指すことが、結局は問題解決に素早くたどり着けることに気づいたのである。

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