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定年退職の日を正確に把握していますか?(『定年後』著者に聞く)

2017年09月08日 公開

楠木新(人事・キャリアコンサルタント)

 

誰もが抱く漠然とした不安に光を当てた

聞き手:Voice編集部

――本書『定年後』は、退職者への取材や楠木さん自身の体験を基に、定年後の「現実」を浮き彫りにしています。第2の人生を充実させるためのヒントも多く、現在20万部を超える大ヒット。「定年後」というテーマが読者の反響を呼んだのは、なぜだと思いますか。

楠木 誰もが抱いている漠然とした不安に光を当てたことがよかったんじゃないかと思います。社会人は普段、仕事に集中して毎月きちんと給料をもらう生活のなかで、先のことまではあまり深く考えていません。以前、50歳前後の社員向けに「セカンドキャリア」をテーマにした研修を行なったとき、多くの人が定年後について意識していないことに驚きました。定年が60歳の誕生日なのか、その年度末なのかさえ知らない人もいました。

とはいえ、「いつかは会社を離れなければならない」という将来への不安は誰しも抱いている。そのぼんやりとした不安を直視してもらうために、本書を執筆しました。じつはこれまでにも、重松清さんの『定年ゴジラ』(講談社、1998年)や渡辺淳一さんの『孤舟』(集英社、2010年)のように定年後を扱ったヒット作があります。近年、そのニーズがあらためて高まっていると感じています。

――楠木さんは保険会社を定年退職する以前から、「働き方」をテーマにした作品の執筆をされています。定年後の生き方について意識するようになったのはなぜですか?

楠木 47歳のときに会社生活に行き詰まって体調を崩し、休職したことがきっかけです。いざ会社に行かなくなると、家で何をすればいいのかわからない。出掛けるにしても、本屋や図書館、またはスーパー銭湯のような温泉施設しかなかった。それまで自分がいかに会社にぶら下がって生きてきたかを痛感しました。同時に、自分の置かれた状況は定年後のそれと同じではないかと思ったんです。休職した経験が思いがけず定年後の予行演習になりました。

――定年退職者の背中はどこか寂しそうに見えます。この先、彼らにどんな人生が待っているかを考えると、見送る側としては複雑な感懐を抱きます。

楠木 私が取材したケースで多かったのが、時間の感覚や生活リズムが崩れる人です。今日が何曜日なのかさえもあやふやになってしまう。定年後は現役時代と違って、そもそも毎日決まった予定があるわけではなく、手帳を使う必要がない。そのため、時間の感覚が徐々に失われてしまうのかもしれません。毎日すべきことがないと朝起きる時間も不規則になっていき、長時間テレビを観るだけの生活を送り続けるケースもよく見られます。

――現役時代と同じように時間の感覚を保つために、具体的なアドバイスはありますか。

楠木 私は、1日を3分割する方法を実践しています。たとえば午前中は執筆時間に充て、正午から17時ごろまでは外に出掛け、18時からは家族との会話を楽しむ、といった具合です。社会人のときは1日があっという間に過ぎてしまいますが、定年後は時間が有り余っている。自由に使える時間が1日中あるというのは、意外と長く感じるものです。

――夫の定年後、夫婦間の関係が悪くなってしまうのも、避けたい事例ですね。

楠木 もちろん、夫の定年後も仲睦まじく過ごしている夫婦もいます。ですが、夫がずっと家にいる状態というのは、やはり嫌がられるようですね。妻からしてみると、自分が出掛けるときは夫に伝えないといけないし、お昼ご飯を用意する必要があるかどうかも、いちいち確認しないといけない。いままでは、夫は会社に行くのが当たり前だったわけで、いわば職と生活が分離されていた。そこからいきなり職がなくなって、夫が生活に入ってくるわけですから、妻のほうはストレスが溜まるでしょう。

ただ、いまは共働きの家庭も多くなりました。その意味では、夫の定年前から職と生活の棲み分けができているため、夫婦間の衝突が起こりにくくなっているともいえます。私たちの子どもの世代では夫が育児をする「イクメン」も増えていますし、状況はだんだん変わってくるのではないでしょうか。

 

(本記事は『Voice』2017年10月号、「著者に聞く」を一部、抜粋したものです)



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