「M-1グランプリ 2023」で19代目の王者に輝いたお笑いコンビ・令和ロマン。昨年の宣言通り今年のM-1にもエントリーしたことで世間を賑わせたり、本意とは違う形で「テレビには積極的に出ない」のコメントが注目されてしまったり、何かと話題に事欠かないお二人。
分析と戦略をもってお笑い賞レースに挑んできたという髙比良くるまさんは、初の著書『漫才過剰考察』(辰巳出版刊)を11月8日に発売しました。独自の視点で漫才やM-1について考え尽くした1冊で、予約開始からたくさんの注目が集まりました。
くるまさんと言えば分析のイメージが強いですが、あらためて聞いてみると「僕の分析は分析とは呼べない」と意外な一言が。くるまさんの現在に影響を与えてきたものについて詳しくうかがいました。
本を書くのはとんでもなく大変だった
――初めてのご著書を出版されますね。Web連載されていたものを9割ほど書き換えて書き加えて、ほとんど書き下ろしになったと本書の中で話していたと思います。実際に本を1冊仕上げてみていかがでしたか。
とんでもなく大変でしたね。
人って文章脳と言語脳に分けられると思っているんです。僕なりに考えた、文系理系のようなイメージです。頭ん中に文章を書く人が理系的で、発話しながら考える人が文系的だと思っていて。
僕はめっちゃ文系人間なんで、その場その場で言葉を発することや、みんなとコミュニケーションをとりながら一つ結論を見つけたりするのは得意なんですが、1人で黙々と作業ができないんですよ。
それこそ霜降り明星の粗品さんのように、文章が書けるし、音楽も作れるし、制作ができるような人は文章脳だと思うんですけど、僕はそうじゃないんで。考えていることを、どう1冊に落とし込むかでめっちゃ苦しみました。
――書き続けるための何か工夫はされましたか。
全くゼロの状態からは書けないんで、担当編集の方とお話ししながら議事録みたいなものを取っていただいたり、対談形式でそれを文章に起こしたらどうなるか、みたいな感じでやってましたね。話したことを文章にして自分でまとめる作業を繰り返しました。
――くるまさんは、普段から本は読むのでしょうか。
全然読まないです。先ほどお話ししたように僕は文章脳じゃないんで活字が入ってこないんですよ、全然。
勝つためには、努力や根性じゃなくて「戦術」しかなかった
――読書をされないというのは少し意外です。くるまさんと言えば「分析」のイメージが強いですが、その分析力はどのように養われたのでしょう。
『アイシールド21』というアメフト漫画の影響が大きいです。登場人物に蛭魔妖一というキャラクターがいるんですけど、勝つためにいろんな戦術を駆使するんですよ。その勝負がかっこいいなって、子どもの頃にすごく感銘を受けました。
蛭魔は与えられたカードの中だけで戦略的に勝負するんですけど、僕もそれをやりたくて、その意識をずっと持ちながら生きてて。中学、高校とラグビーをやっていて、母校はスポーツ推薦のない学校だったんですけど、いかにしてスポーツ推薦のある強豪校を倒すかっていうのをひたすら考えていました。体格差がある人たちと戦うときはやっぱり考えないと勝てないんで。そうした戦略を立てる必要のある環境に身を置けたのもでかいですね。
あとは、学年ビリの学力だった僕が、どうやったらみんなと一緒に慶応や早稲田に入れるか。それはもう努力とか根性じゃなくて戦術しかないんで、勝つには。素質がなかったから常に勝負するしかないんで。結果的にそれが分析力として身についていった感じですかね。
――『アイシールド21』が部活動にも、受験にも大きな影響を与えたんですね。
あとは実在する人物で言えば、島田紳助さんは好きでしたね。喋りのうまいお笑いがすべてを制することを体現している方だと思います。
子どもの頃、はじめはなんで親が紳助さんの話に納得しているのかがわかんなかったんです。テレビを観ながら「やっぱいいこと言うな~」とか言ってて。
それで行列※とかをずっと観ていたら、みんなの前に立って話をまとめる人って偉いんだなって気づいたんです。それで紳助さんに心酔している親を改めて観察してみて、その手があったかという感じでしたね。
「勝つためにはいっぱい喋っちゃえばいいんだ」って。
今の僕があるのはこの2つですね。蛭魔みたいに戦うことと、紳助さんみたいにいっぱい喋っちゃうこと。
※行列のできる法律相談。日本テレビで放送中の番組。2011年までは、芸能界を引退した島田紳助さんが司会を務めていた。
「僕がやっているのは分析と呼べない」
さっき話したように僕は言語脳なんで、いっぱい喋っていく中で結論が出るんですよ。今思いついていないことも喋ってるうちに結論が見えてくる。それが分析してるみたいに見えるだけであって、多分本来は文章脳で体系的に答えを導き出せる人の方が分析できてるんですよ。
僕のことを"分析"って思ってくれている方は、同じ言語脳なのかなと思うんですけど、本当に分析力がある人にとっては僕がやっているのは分析なんて呼べないはずなんです。準備もクソもないし、データだって何もないから。流れの中で出てきたデータは拾いますけど、基本は体験に基づいて喋り出して何か答えにたどり着きます。でも、本当の研究者って違うじゃないですか。データや数字をある程度揃えてから分析しますよね。
僕が数字に向き合っていないことは、全然いいと思っています。できるのはこれだし。逆に数字と向き合える人はきちんと段階を踏んで分析をした方がいい。僕は、この自分ならではの言葉のスピード感を活かしていければいいと思っています。
(取材・編集 PHPオンライン編集部 片平)