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「頭の中の引き出し」を持つとは? 経営学者によるビジネスに活きる“思考法”

内田和成(早稲田大学ビジネススクール教授)

2012年07月17日 公開 2023年06月08日 更新

内田和成

20の引き出しを持つことのメリット

この引き出しを持つことのメリットはいろいろあるが、まずは、頭の中に定着しやすくなるということがある。

優れたアイデアをスパークさせるためには、情報をある程度頭の中で泳がせて、熟成させる必要があるというのが私の持論だが、何か漠然と「面自そうだな」と思って記憶にとどめようとするよりも、「この引き出しと関連しているな」と思って記憶にとどめようとするほうが記憶への定着率も高くなるし、そこからスパークが起こる確率も高くなってくるはずだ。自分の「仮想データベース」というわけだ。

また、情報そのものに対する感度が鋭くなるということもある。これは前に紹介した目的意識ともつながってくる話だが、漠然と「何か情報はないかな」と探したところでろくな情報は集まらない。

「どんなアウトプットのために、どんな情報が必要か」がわかっていれば、それだけいい情報が集まるわけだが、それと同じで、自分がどんな情報に関心を持っているかが見えていれば、それだけ情報に対するアンテナの感度も上がるのだ。

さらに、引き出しだけに「引き出しやすい」というメリットがある。たとえば、誰かとリーダーシップについて話している最中に、「そういえばリーダーシップの引き出しにあの話があったな」というように情報を引き出すことがより容易になるのだ。

私の場合はコンサルタントとしてクライアントと話をしているときや、大勢でディスカッションする際に、引き出しの中に入っているネタをよく使う。単に自分の考えを述べるより、それに関連するネタを一緒に紹介したほうが、相手に強く印象付けられるからだ。

特に有効なのは、「事例」である。これはコンサルタントに限らずあらゆる仕事で同じだと思うが、いくら正しいと思うことを大上段から説得しようとしても、それが単なる理屈だけだと、相手はなかなか納得してくれない。

それに対して、実際の事例が1つでもあれば、それだけで一気に話はスムーズになる。実際の事例を紹介することはきわめてパワフルな説得材料なのだ。いわば、アナロジー(類似事例)の活用である。

実際に自分が見聞きした事例はもちろん、新開や雑誌、テレビなどで見た情報を、「いつか使えるかもしれない」ということで頭の引き出しの中に入れておく。すると、実際にそのテーマの話が出た際に、比較的スムーズに取り出すことができるというわけだ。

このように「20の引き出し」は「アイデアの元になる情報」のためだけでなく、「コミュニケーションの手段としての情報」を集める際にも役立つのである。 

また、私の場合は、講演のネタや書籍の材料としても使っている。このように一粒で何度もおいしいのである。

 

【PROFILE】内田和成(早稲田大学ビジネススクール教授)

東京大学工学部卒。慶應義塾大学経営学修士(MBA)。日本航空株式会社を経て、1985年ボストンコンサルティンググループ(BCG)入社。2000年6月から2004年12月までBCG日本代表、2009年12月までシニア・アドバイザーを務める。2006年には「世界で最も有力なコンサルタントのトップ25人」(米コンサルティング・マガジン)に選出された。2006年より早稲田大学大学院商学研究科教授。ビジネススクールで競争戦略論やリーダーシップ論を教えるほか、エグゼクティブ・プログラムでの講義や企業のリーダーシップ・トレーニングも行なう。
著書に『仮説思考』『論点思考』(以上、東洋経済新報社)、『スパークする思考』(角川oneテーマ21)、『異業種競争戦略』(日本経済新聞出版社)などがある。

 

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