「いきなり!ステーキ」大躍進を実現した厚切り経営哲学~一瀬邦夫
2017年12月06日 公開 2017年12月11日 更新
決意を堅持し邁進してこそ、ブレークスルーは生まれる
新しいスタイルによって厚切りステーキを驚きの低価格で提供し、ファン数を伸ばしている「いきなり!ステーキ」。年間平均40店舗に及ぶハイペースで出店し、著しい急成長が注目される。そのスピード展開の背景には、どのような経営哲学があるのか。常識を破り、ビジネスを進化させ続ける心得を一瀬社長にうかがった。
取材・構成:加賀谷貢樹
写真撮影:にったゆり
※本記事は、マネジメント誌「衆知」11-12月号特集《スピードで勝機をつかむ》より一部を抜粋編集したものです。
外食の常識を打ち破る斬新なビジネスモデル
今日、「いきなり!ステーキ」がこれほど多くの人に受け入れられているのは、やはり「安くておいしいもの」を求める人間の本能に強く訴えるものがあるからだと思います。
例えば、人気のランチメニュー「CABワイルドステーキ」は、300グラムで税抜き1350円。300グラムといえばステーキとしては厚いほうで、食べ応えがあるのはもちろん、レアでおいしく味わえる厚さです。うちのステーキを初めて食べた人は、お手頃な価格でこれほどの厚切りとレアのおいしさを味わえることに、圧倒されてしまうのではないでしょうか。
本場のアメリカでは、ステーキは日常的に厚切りで食べられていますが、元々その食文化がない日本で同じようにステーキを厚くしようとすると、どうしても価格が高くなってしまいます。だから分厚いステーキを食べたくても、手頃に食べられる店がこれまでなかったのです。せいぜい150~200グラム程度で、価格が2000円前後といったあたりでしょう。
しかし、私は「いきなり!ステーキ」を始める以前から、厚切りステーキにこだわってステーキレストランを繁盛させてきました。オーストラリア産の高級牛肉を300グラムの厚切りにして、3000円の価格で出していたのです。
1グラム=10円ですから、これでも業界の中では価格は安いほうなのですが、ふとある時に、「厚切りの高級牛肉をさらにリーズナブルに提供できれば、もっと売れるはずだ」と思い立ちました。
そこで大胆に、半額となる1グラム=5円に価格を設定し、300グラムの厚切りステーキを1500円で食べられるようにしてはどうかと考えてみたわけです。
実際に、期間限定でメニューを絞って半額セールを行なってみると、いつも大変好評でした。郊外店では交通整理にガードマンが必要なほどの盛況ぶりです。期間限定ではなく、毎日半額にしたら、売れないはずはありません。
とはいえ、採算が合うかどうかが一番の問題です。試算すると、半額では肉だけで原価率が70パーセントを超える、つまり1500円の価格でステーキの原価が1000円を超えてしまいます。ワイン、ビール、サラダ、ご飯などのステーキ以外のメニューを合わせたトータルの原価率でみても60パーセント。普通、外食産業でこれほど高い原価率で店舗を運営することはありえません。
その点においては、俺の株式会社(東京都中央区)が運営する「俺のフレンチ」や「俺のイタリアン」が、立ち食いスタイルの低価格で成功したことが大きなヒントになりました。価値があるものを安く食べられるなら、お客様は立ち食いでも店に入りたくなる。だとすれば、ステーキは立ち食いにピッタリの食材です。
そこで、立ち食いスタイルで出店コストやオペレーションコストを下げ、あわせてメインのステーキ以外のメニューを極力絞りました。それによって、厚切りの高級ステーキを当社比半額で提供できるようにしたわけです。20坪で月商2920万円という「いきなり!ステーキ」のビジネスモデルができたので、「よし、やろう」と私は即断しました。
当初、お客様の平均滞在時間を1時間、平均客単価を3000円と想定していました。ところが、オープンしてみると、立ち食いというスタイルもあり、平均滞在時間は30分で、平均客単価は2000円ということがわかりました。
つまり、一席あたり1時間で4000円を稼ぐ高収益店ができたことになります。その時、「やってみてはじめてわかることがある。やってみなければわからない」という言葉が、私の頭の中に浮かんできました。
私の信条はブレークスルー、つまり現状を打破し、誰も成し遂げていないことをやることです。以前、あるメディアに「『いきなり!ステーキ』は非常識の塊だ」と書かれたことがありますが、私はそれを褒め言葉だと思っています。
もちろん、挑戦には困難やピンチがつきものです。だからこそ、挑戦する価値があります。
よく、「ピンチのあとにチャンスあり」と言いますが、困難やピンチの時に「なぜこんな困難にぶつかるのか」「どうすればこのピンチから脱することができるのか」を一所懸命に本質を突くぐらい考えるから、チャンスがひらけてくるのです。そういうことを考える機会を与えてくれるという意味で、困難やピンチは必ずしも悪いことばかりではないと思います。