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「今を見る力」こそが先見力の源~南部靖之・パソナグループ代表

マネジメント誌「衆知」

2017年09月15日 公開 2017年09月15日 更新


南部靖之・パソナグループ代表今から40年も前に、当時はまだ社会的に認められていなかった「人材派遣」という雇用形態を提案し、新しい働き方を世の中に広めてきた南部代表。まさに優れた「先見力」で事業を展開してきたように見えるが、「自分には先見力はない」と語る。では、人材派遣というビジネスを切り拓いてきた原動力は何なのか。そこには、未来を見通すために「今」を見極める力の存在があった。
※取材・構成:平出浩/写真撮影:永井浩

 

南部靖之(パソナグループ代表)
なんぶ・やすゆき。1952年兵庫県神戸市生まれ。関西大学在学中、「家庭の主婦の再就職を応援したい」という思いで1976年に人材派遣を主業務として「テンポラリーセンター」を設立。1993年に商号とグループ名を「パソナ」に変更、多様な人材の就労支援と新しい雇用インフラの創造に取り組む。現在は「地方創生」に力を注ぎ、様々な事業に取り組んでいる。

※本記事は、マネジメント誌「衆知」7-8月号特集《スピードで勝機をつかむ》より一部を抜粋編集したものです。
 

「今を見る力」が未来を拓く原動力

今、女性の活躍機会を広げようと、政府や企業で様々な取り組みが行なわれています。しかし私が学生だった当時は、「女性は家事・子育てをしていればいい」とあからさまに言われる時代で、主婦や女子大生の就職は今よりずっと大変でした。私自身も実際に就職活動をしてみて、その大変さを実感するとともに、日本の雇用制度への疑問がいくつも湧いてきました。

例えば、企業の人事制度は終身雇用・年功序列という、いわゆる日本型雇用が中心でした。「男性は総合職、女性は一般職」というように処遇格差が大きく、さらには正社員であっても、企業規模によって給与をはじめ、教育研修や福利厚生、健康管理にも大きな格差がありました。

就職活動中にある企業の方に聞いてみると、「君、雇用というのは、その人の面倒を一生みることなんだよ」と言う。でも私は、「フルタイムで働けない方もいるし、子育てしながら、勉強しながら働きたい人もいる。音楽家や芸術家だっている。多様な働き方を認めないと、働きたくても働けない人が大勢いるのではないか」と単純に思った。一方、ある企業の方は「昼から三時間だけ来てくれる人や、忙しい月末だけ来てくれる人がいれば」とも言っている。

そこで、フルタイムでは働くことが困難な家庭の主婦の方であっても、一日4時間でも、1カ月に1日だけでも、これまでの経験を活かして、安心して働くことができる「雇用格差のない仕組み」をつくろうと、今でいう人材派遣業(労働者派遣事業)を始めたのです。大学の卒業を1カ月後に控えた1976年2月に、「テンポラリーセンター」を設立しました。

私は大学では工学部に進み、応用化学を専攻していたので、法律や労働のことにはまるで詳しくなかった。事業に将来性があるからスタートしたというよりも、ただ単純に「こういう働き方があるといいんじゃないか」「こんな働き方があれば喜ばれるんじゃないか」と思って、動いたのです。

40年前は、まだ人材派遣の法律さえありませんでした。世間的にも人材派遣に対する理解が得られておらず、派遣の登録者を募集する広告を新聞に掲載させてもらえないということもありました。それでも、この仕組みがあることで、これまで働くことができなかった方が働けるようになる、雇用機会を創造できると信じて、あきらめることなく力を尽くしました。

そして会社を創業して10年後に、ようやく派遣労働者の雇用を法律で定めた労働者派遣法が施行されました。従来の雇用形態ではカバーできなかった働き方が広まる契機となり、以降も私たちは新しい就労のかたちを社会に提案し、実現してきました。

こんなふうに話をすると、「社会の動きを見通して、先取りしてきたのですね」「『先見力』があったのですね」とおっしゃってくださる方がいらっしゃいます。でも、そうではないのです。私は自分には「先見力」があったとは思っていません。

私は、世の中のリーダーには、共通する4つの力があると考えています。一つは「活力」、次に「共有力」、それから「影響力」、最後に「今を見る力」です。私にあるのは「ええ加減力」といったところじゃないかな(笑)。

創業当時、結婚などで会社を離れた多くの主婦の方が、自分のスキルを活かせる仕事がなくて困っていた。そんな悩みを見聞きして、自分に何ができるのかを考えて挑戦したのが、人材派遣の仕組みでした。私には先見力はありませんが、いろいろな人から話を聞いて、その声を吸収する力は、人一倍あるかもしれません。わからないことは率直に聞いて、教えてもらう。それは今も変わりません。

例えば今でも、女性は家事の負担があるからなかなか思うように働けない、という悩みがあります。では、どうすればいいか。今年パソナは、世界にハウスキーパーやエンジニアなど様々な人材を送り出しているフィリピンのマグサイサイグローバルサービス社と業務提携して、フィリピンの方が日本の家庭で掃除や洗濯などの日常の家事をお手伝いするハウスキーピング・サービスを始めました。パソナがフィリピン人のハウスキーピング経験者を社員として採用して、日本語や日本式家屋での家事研修を受けてもらった上で、ハウスキーピングを行なうのです。この事業により、女性の家事負担を軽減させ、女性の社会進出を後押しすることを目的にしています。

こうした事業を行なうことができるのは、今の社会の問題をじっと見て、何が必要なのかを常に考えているからかもしれません。未来とは、現在の延長線上にあるものですから、「先を見る力」とは、すなわち「今を見る力」なのです。

パソナグループが掲げる企業理念は「社会の問題点を解決する」というもので、これは創業以来一貫しています。社会には様々な問題があります。私はそれをよく見て、多くの人から悩みを聞いて、ヒントを教えてもらうことで、解決のお手伝いをしてきただけだと思っています。

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