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選手への「質問」が能力と自主性を高める~白井一幸・プロ野球コーチ

マネジメント誌「衆知」

2018年02月26日 公開 2018年02月26日 更新

選手への「質問」が能力と自主性を高める~白井一幸・プロ野球コーチ


 

二塁手として545回の守備機会でノーエラーのパ・リーグ記録を持つ白井氏。守備の名手はその技術を伝えるだけでなく選手にみずから考えさせる指導を徹底した。
 

「失敗してもいい」という励ましは逆効果

プロ野球の指導者の中には、自分の成功談を語り、選手にも同じようにやれと指導する人がいます。それは、名選手が指導者になるケースが多いためでもあるのですが、これも正しい指導法とはいえません。なぜなら、選手は、やり方は理解しているけれど、それができないがゆえに悩んでいるからです。

成功談というのは、自分主体の発想であり、選手の立場に立っていません。それを聞いた選手は、「自分はあなたとは違う」「自分にはできない」と思うだけです。ただ、成功談そのものが悪いわけではなく、それを活かすには失敗談も一緒に伝えることが大切なのです。

例えば、私は二塁手として545回の守備機会ノーエラーというパ・リーグ記録を持っていますが、ファインプレーについてだけでなく、「こういうエラーをした」「もしこうしていたら、そのエラーを防げていた」と話せば、選手への説得力は全く違ってきます。それを聞いた選手は「白井さんもそうだったのか」と思い、自分のことに置き換えて考えられるはずです。

選手の立場で考えるのは、選手の成功をサポートするのが本来の役割である指導者にとって当たり前のことなのですが、日本のスポーツ界では、そうでない人が圧倒的に多いのが現状です。選手が失敗するのは指導法が間違っているからであり、いわば指導者の責任です。自分のミスなのに選手を責めるのはおかしな話で、自分主体で考えている証拠です。

本来なら、「つらい思いをさせて悪かった。私の指導が至らなかった」「お前のためになれなかった。申し訳ない」と、指導者のほうが謝るべきです。選手のミスは自分の責任であるという心構えは、指導者として常に持つべきであり、指導のベースになるものだと私は思います。

また、選手に「思い切りやってこい」と言って励ますのは、指導者の役割の一つです。それ自体は選手のやる気を高める意味でいいことなのですが、その際「失敗してもいいから」と言うのは逆効果です。それでは選手の能力が伸びない、というのが私の指導者としての実感です。

「失敗してもいい」というのは、失敗を前提にしている時点でまずありえません。誰もが勝つために、成功するために練習しているのですから、「お前なら絶対にできるから、思い切りやってこい」と、背中を押してあげるのが本当の励ましです。

だいたい「責任は俺が取ってやる。失敗してもいいから思い切ってやれ」という指導者は、選手が失敗すると、「あのやり方じゃ駄目だ」と選手を責め、ひどいケースになると、「俺はこうしろと言ったのに、その通りやらなかったお前が悪い」と、責任をすべて選手になすりつけます。このように、「責任を取ると言っておきながら、最後に責任を押しつける」のは指導者として二流で、こうした例はスポーツだけでなく、世間にも山ほどあるはずです。

例えば、子供に親が「失敗してもいいから、思い切ってやれ」とか、上司が部下に「責任は取ってやるから、思い切ってやれ」と言う。これらは響きのいい言葉で、みなよかれと思って使っていますが、大きな間違いだと私は思います。

では、一流の指導者はどうするかというと、「最初に任せて、最後に責任を取る」のです。人は責任を与えられるから頑張れる。責任は大きなエネルギーになり、大きな成果をあげます。成功の原動力になるものを、最初から奪ってしまってはいけません。

だから部下には責任を与えるべきであり、それは、「あなたはできる人ですから、任せましたよ」ということでもあります。

ファイターズの栗山英樹監督はこれができる人で、常に選手を信じ切ります。選手のほうも、信じてもらえるからこそ力を発揮できるし、いい結果が出るのです。

とはいえ、若い選手や経験の少ない選手というのは、大事な場面では萎縮しがちです。萎縮は、緊張と言い換えてもいいのですが、私は緊張が悪いとは思いません。むしろ、緊張している選手は高く評価します。萎縮や緊張をすると、誰でも慎重になります。なぜそうなるかというと、なにがなんでも成功したいからであり、自分が失敗することでまわりの人たちに迷惑をかけたくないと思うからです。つまり、緊張は高い成功意欲と強い責任感の裏返しであり、そのため私は選手には「おおいに緊張しよう」と言います。

ただ、緊張したままでは選手は失敗します。この場合、原因は「力んだ」と「パニックになった」という二つしかありません。その対処法ですが、前者は「身体」の問題であるためルーティンが有効で、例えば腕を回したり、拳を握ったり緩めたりすることで簡単に緊張をほぐすことができます。

一方、後者は「心」の問題であり、急にはリラックスできません。でも、パニックから抜け出す、冷静な思考を取り戻すのは難しくありません。例えば追い込まれた打者であれば、「この場面でやるべきことは何だ?」「狙い球はどうする?」「打球方向は?」と自問を始めた瞬間に思考は動き出します。緊張はそのままに、頭を動かせばいいのです。

※本記事は、マネジメント誌「衆知」掲載〈白井一幸の組織改革と人材育成はプロ野球に学べ!第4回》より、一部を抜粋編集したものです。
 

白井一幸(しらい・かずゆき)
1961年生まれ。駒澤大学卒業後、1983年ドラフト1位で日本ハムファイターズ入団。1991年には最高出塁率とカムバック賞を受賞するなどし、1996年引退。現在、北海道日本ハムファイターズ内野守備走塁コーチ兼作戦担当。

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