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従業員満足度が低い、後継者育成が進まない…人事が変われば経営は良くなる

南和気(SAPジャパン株式会社 人事・人財ソリューションアドバイザリー本部 本部長)

2018年09月10日 公開 2018年09月10日 更新

 

次世代の組織「パルテノン型組織」とは?

また、「組織運営のスタイル」に変化が求められていることも、グローバル人事の推進を促す3つ目の要因といえます。

――組織運営の変化というのは?

多様性の強みを活かすためには、チームを引っ張っていく「強いリーダー」から、メンバーが力を発揮できるよう支援していく「支援型リーダー」へと、リーダーシップのスタイルが変化する必要があります。しかし、日本企業の現場では、まだまだそうした動きが浸透しておらず、強いリーダーを求める風潮があります。これは、変化の激しい時代においては、柔軟な対応の妨げになりかねません。なぜなら、いくら優秀なリーダーでも、その一人が意思決定権をすべて握っていれば、その人の能力の範囲内でしか事業を進められないためです。

これからの時代に理想とされる組織は何か。それは、一人の強力なリーダーに頼るのではなく、複数のリーダーが自立し、支え合う組織です。これを、収入の柱を複数化して経営基盤を安定させる「パルテノン戦略」にちなんで、「パルテノン型組織」と呼んでいます。

私のチームでも、パルテノン型組織を実践しています。組織やチームを束ねる長というのは、あくまで意思決定の責任をとるという「役割」にすぎません。各業務については、それを専門とするメンバーにどんどん権限移譲すればいい。営業については営業の得意な人が、技術については技術に長けた人が、リーダーシップを発揮すればいい。

これまでの日本企業では、リーダーや上司が圧倒的に多くの情報をもっていて、メンバーとの間に情報格差がありました。しかし、パルテノン型組織をうまく運営するには、リーダーメンバーのもっている情報レベルを同じにするという意識が重要です。

――パルテノン型組織モデルは、企業にどんなメリットをもたらすのでしょうか。

各メンバーが価値観や理念を理解したうえで、リーダーシップを発揮する。それが、エンゲージメントの向上につながると共に、権限と情報が分散・共有されることで、スピーディーに判断できるようになるのです。変化の激しい環境においては、こうした多様性が確保できる組織のほうが、勝ち残りやすいといえます。

 

グローバル人事推進のボトルネックは、「人材の需給」を把握できていないこと

――日本企業がグローバル人事をめざすうえで、直面しやすい課題はありますか。

経営者や人事戦略立案者からの相談で多いのは、「どうやってグローバル人材を育成すればいいか」という内容です。けれども、そもそも自社の人材の需給をグローバルに把握できていないというケースも少なくありません。これがグローバル人事を推進するうえでのボトルネックになっています。

「いつまでに、どの支社・部門において、どんな人材が、何名必要となるのか」という需要。そして、その候補となる人材は、自社内に何名いるのかという供給。この両方を人事が把握できてはじめて、適切な育成ができる。人事は、海外を含め、自社の社員の経験や強みなどを詳細に把握することが求められます。

――その課題を解消するために、人事が果たすべき役割は何ですか。

大事なのは、自社のビジネスをどう伸ばしていくか。そのためには、経営と人事が紐づいていなければなりません。人事には、経営者と同じような中長期的な視点をもち、事業計画と密接に連動した形で人事計画を立てることが求められます。

現場の部門長はどうしても、単年の数値目標に日々追われてしまう。一方、それより少し遠くを見据えられるのが人事担当者。現時点では、必要なポジションが満たせていたとしても、3年後、5年後はどうか。自社の経営戦略を実行するために、少し先の未来で必要になるであろう人材の要件を理解できているかがカギとなります。

南和気(SAPジャパン株式会社 人事・人財ソリューションアドバイザリー本部 本部長)

とはいえ、3年後、5年後を見据えた人材育成計画を策定するのは難しいのではないでしょうか。

ポイントは、複数のシナリオを描くこと。事業戦略はある程度ブレることが予想されます。その変化に人材戦略で柔軟に対応する構えが必要です。

たとえば、インドの市場拡大を見据えてインド支社を束ねられる人材を育成するという目標を掲げたとします。ところが、中国の市場拡大の優先度が上がる可能性もある。その場合には、中国支社を束ねる人材育成が急務となる。では、両方の可能性も見越して、「アジアで活躍できる人材」のプールを、2年後には3名確保できるように、候補を洗い出そう――。こんなふうに将来起こり得るシナリオを複数描き、可能な限りの対応策を練るのです。

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グローバル・リーダー育成のカギは「気づき」を与えること

著者紹介

フライヤー(flier)

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