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なぜ貧困家庭の冷蔵庫はモノであふれているのか

阿部彩(社会政策学者),鈴木大介(ルポライター)

2018年10月26日 公開 2023年01月30日 更新

阿部彩

貧困家庭の冷蔵庫が空であるという先入観

(鈴木)そして、なにより問題なのは、そこに定型化した現場主義というのがあることです。

ニュースの編成が定型化してるんですよ。殺人事件があったら、まずヘリコプターから俯瞰した絵があって、現場近くの人たちがドア越しに話してくれて、スタジオに戻り、パネリストがパネルで見せて、コメンテーターに振るみたいな型が決まっている。

新聞記事だったら五行で済むかもしれない情報をコンテンツとして成立させるために、テレビ番組にはいろいろなものがはさまってくるわけですよね。

そこの中の一つに現場の声を取りましょうというものがあって、それをどこにでも当てはめちゃう。貧困の当事者でも、精神疾患の当事者でも、子どもでも何でも現場の声にしちゃう。絵にしちゃう。

(阿部)なので、番組をつくる側がどういうふうなことを見せるか、の自覚が問われる。

(鈴木)そうですね。

(阿部)以前貧困の子どもの食の問題をテーマにした「NHKスペシャル」に出演したときに、ディレクターの方といろいろお話ししたんですけど、「ぱっと冷蔵庫を開けたときにモノが入っていたら批判が起こる」と。「貧困者の冷蔵庫は空っぽなものだ」という一般感情があるみたいです。

(鈴木)それはもう貧困の本質を逆に見てますね。貧困の当事者の冷蔵庫の中には、賞味期限切れのものがいっぱい入ってるのが当たり前なんです。

(阿部)なるほど。

(鈴木)びっくりですよ。買い物のコントロールができない。必要な食材の量を自分で判断できない。安いものをうまく選んで買うことができない。そういう能力や考える力すら枯渇してしまっている。それが貧困の現実じゃないですか。

(阿部)貧困の現実と一般の人が考える貧困の「あるべき姿」の乖離をテレビが超えられない。本当の苦しい部分をちゃんと見せられない。テレビの製作者やディレクターの方も、配慮しているんですけど、貧困の「あるべき姿」が強化されていくんです。

(鈴木)間違ったバイアスですね。当事者報道には何らかのバイアスが必要ではあるんですけれども、冷蔵庫の中に傷んでいるものがたくさん入ってる状態はちゃんと見せなきゃいけない。

請求書でいっぱいなのに手も付けていないポストを見せなきゃいけない。そのうえで、どうしてそうなってしまうのか、そこから抜け出せないのかを、当事者の苦しさとして伝えなきゃいけない。

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