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ある日突然、あなたが窃盗犯に…誰にでも起こり得る「誤認逮捕」の発生原因

矢部正秋(やべまさあき/弁護士)

2018年10月23日 公開 2019年04月03日 更新

ある日突然、あなたが窃盗犯に…誰にでも起こり得る「誤認逮捕」の発生原因

<<まったく身に覚えがないのに、ある日突然に逮捕、連行される……ニュースで見るような話に感じるかもしれないが、これは誰にでも起こりうること。潔白が証明されても、長期間の勾留による疲弊もさることながら、一度社会的な評価が失墜してしまうと取り戻すことが難しくなる。

『プロ弁護士の「勝つ技法」』にて、著者であり弁護士の矢部正秋氏が2つの誤認逮捕の事例からその発生する原因を探っている。その一節を紹介したい。>>

※本稿は矢部正秋著『プロ弁護士の「勝つ技法」』PHP新書より抜粋・編集したものです

 

見に覚えのない逮捕、連行。そのショックは大きい

一方向の見方を事実と思い込むと、深刻な誤認が生じる。

たとえば、2014年2月28日、山口県の40代の女性Aさんはパチンコに行った。台の前に座ると、何か置いてある。「この台には先客がいる」と思い、すぐに別の台に移動した。その後、帰宅。

ところが翌日、Aさんは警察署に連行され、逮捕された。

何のことか分からない。警官は「パチンコ台に置いてあった先客の財布(1万円入り)を盗んだ容疑。店内の防犯カメラの映像から明らかだ」という。

Aさんは全面否認。しかし「お前が盗った」と決めつけられ、言い分を聞いてもらえない。家族のことが頭に浮かび「犯行を認めれば帰れるのか」と何回も思ったそうである。

後に、パチンコ店の店員が、盗まれた財布を店内のゴミ箱の裏で見つけた。警察が別の防犯カメラを調べると、70代の女性が財布を捨てている様子が映っていた。Aさんが台を離れてから1時間20分後のことである。

Aさんは7日目の朝に釈放された。
警察はAさんに謝罪し、再発防止に努める旨を約束した。しかし、Aさんは納得できない。

国家賠償を求めて国と県を訴えた。山口地裁は、県警の過失は明らかだとして県に86万円の支払いを命じた。だが、検事が県警の捜査報告書を疑う事情はなかったとして、国への請求は棄却した。

庶民にとって逮捕のショックは大きい。無罪放免されても、体重が大幅に減ったり、精神科に通ったり、仕事を休んだりと深刻な影響が長く続く。しかもこの事件の被害額は1万円程度。そもそも逮捕・勾留する事案であろうか?

これを見ても、警察・検察は(客観的)事実と(主観的)意見とを混同しているとしか思えない。

「Aさんが犯人だ」というのは警察の意見であって、事実ではない。Aさんを犯人と評価するには、最低限、以下のような補強事実が必要である。

①Aさんがパチンコ台から財布をもち去った明白な映像(または目撃証言)がある。
②Aさんが財布をゴミ箱に捨てた明白な映像(または目撃証言)がある。
③財布にAさんの指紋(またはDNA)が付いていた。

こういう「固い証拠」がないのに、自白を引き出すために逮捕に走る。それを裁判所も追認する。よく見られる風景である。
「事実」と「意見」を判然と区別しない(またはその違いを知らない)ところに、日本的思考の欠点もあるのではないか。

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弁護人の独自調査でアリバイ立証 しかし勾留は85日に及ぶ

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