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生き方

最終学歴「高校を1週間で中退」の成功者は、貧困家庭からいかに脱出したか

タカ大丸(通訳/翻訳家)

2018年12月03日 公開 2023年01月12日 更新

タカ大丸

デービット・ホルトンがはじめて自身が貧困だと気がついた瞬間

その後、母親は再婚する。お決まりといえばお決まりだが、義父の虐待がここから始まる。

「幼いころ、僕のモチベーションはいつかこの義父をぶっ殺してやる、それだけだった。といっても、すべてが悪い思い出というわけでもないんだ。義父はアルコール依存だったけど、お酒を飲んでいるときは機嫌がよくて優しかった。

本当に怖いのは素面のときだったね。何かほんの小さな子供らしいミスをすると地下室に呼び出されて、ぶっ叩かれるのはハンマーがいいか、ムチがいいか、長い定規がいいかって聞いてくるんだ。映画の『グッド・ウィル・ハンティング』そのままだよ。何度か姉が僕の罪をかぶってくれて、助かったよ」

ホルトンに幼いころ一番貧しさと惨めさを感じたのはいつだったのかと聞いてみた。

「僕が使うものはすべて姉のオサガリだったんだ。だから自転車がほしいと言ったら、あてがわれたのは姉の女の子用自転車だったわけさ。ほかの同級生たちはいかにも男の子用のかっこいい自転車に乗っているわけだよね。当然、なんなんだお前の女々しい自転車は、ということになる。今思えば、殴り合い・いじめにならないほうがおかしい。

それで母に文句を言ったら“うちは貧乏なのよ”と言うわけ。え、プアーって何なんだ? 僕にとって“プアー”とは、テレビとかで見るアフリカの裸足で何も食べるものがない子供たちのことだったから、自分がまさかプアーに当てはまるなんて夢にも思っていなかった。あれは僕の子供時代の中でも大きな衝撃だったよね」

こうして必然的に、ホルトンは何が何でもカネを手にしてやる、と幼いながらに執念を燃やすようになる。

 

お金をもらえるパターンは3つだけ

「日本人はよく日本には四季があるって言うけど、カナダにだって四季はあるんだよ。ということはさ、夏なら芝刈りの仕事が発生するし、秋には落ち葉掃き、冬は雪かきをしなければいけない。だけど重労働だから誰だってやりたくない。

それで近所を回って芝刈り、あるいは雪かきをやりましょうかって聞いて回った。そこで大人は考える。面倒くさいことをして腰が痛くなるくらいなら、10ドル払ってこの小僧にやらせればいいんだ、とね。それが僕にとっての初めての仕事だったよ」

昔、ジェームス・スキナーという経営コンサルタントが講演でこんなことを言っていた。

人がお金をもらえるパターンは三つしかない。

1.人がやりたくないことをやってあげる
2.凡人ができないことをしてみせる
3.リスクをとってリターンをとる

この三つだけである。たとえば、「満員のヤンキースタジアムで160㎞の速球を130m飛ばしてスタンドに打ち込む」とか「ワールドカップで国を代表して直接フリーキックをゴールに入れる」はふたつ目にあたる。この場合のホルトンは当然ひとつ目にあたる。 

さらにホルトンの独白は続く。

「次にやったのが新聞配達だった。割り当ての地域があって、たとえば100部配るとかになっているわけだよね。でも、僕としてはもっとたくさん配ってもっとお金をもらいたいわけだ。そこで隣の割り当て地域を担当する子供にお金を払って、そこの地域でも新聞を配らせてもらった。でもね、今にして思えば本当に頭がよかったのは“新聞を配る権利”を売った子供のほうだよ。働かずにお金を手にしたわけだからね」

そういって笑った。

常識で考えて、実家から勘当された日本人女性がカナダに移り住み、夫が自殺してしまえば生活が厳しくならないほうがおかしい。ホルトンの母はとにかく働きづめだったという。

「母には週末もなかったよ。だから僕はとにかく週末だけでも母を休ませてあげたかったんだ。ただね、本当に慎ましい生活をしてお金を貯めて……たしか3回だったかな、僕を日本に行かせてくれたんだ。

母の実家がある奈良にも行ったし、東京にも来た。そのとき丸の内のオフィス街を見たら着飾ったビジネスマン・ビジネスウーマンが美味しそうなランチをとっていた。これを見て僕はいつの日か日本で会社をたちあげ、ビルを建てて美味いものを食ってやろうと決意を固めたんだよ」

その後ホルトンは輝かしい実績を築いていくことになるのだが、その原点にあったのは「人がやりたくないことをやる」である。

「どうやったらお金をもらえるか」は何通りも方法があっても、「どんなときお金をもらえるか」は先述の3パターンだけ。そのうちだれでも実行できるのは、「人がやりたくないことをやる」だけなのだ。

経済の原則として、まずは理解しておく必要がある。

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