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キリンビール高知支店の営業は、なぜそこまで頑張れたのか

田村潤(元キリンビール副社長),田口佳史

2018年12月17日 公開 2023年01月05日 更新

優秀なセールスほど、相手の話を聞いている

田口 キリンを売ろうとしたのではなく、高知のすべての店にキリンを置くということに徹したのが、すごいですね。

田村 なにしろ多くのお客様から「どこでもいつでもたくさん置いてあると、人気があるように思う」と教えていただいたのですから、それをやるしかない。可能か不可能かの話ではないし、他の道はないのです。

特売企画も、それまででしたら受注数を上げることしか考えていませんでした。しかし、お客様のことを第一に考えると、特売企画を活用し、お客様に手に取っていただきやすいところにたくさん並べ、ブランドの価値を伝えよう、ということになる。ブランド力を上げるための工夫が積み重ねられていきました。ブランド力が上がると、キリンを飲んでいただいているお客様が喜んでくださるわけです。

田口 「自分たちの商品を売ろう」というよりも、「どうやったら、お客様とお店の役に立てるか」という発想ですね。

田村 そうです。商品を売るためのキャンペーンというよりも、お客様やお店の役に立つためにキャンペーンを利用させてもらった、という感じです。それまでは、キャンペーンは本社からの「指示」と受け取っていましたが、お客様にメッセージを伝える「手段」として使った。本社が力を入れているのですから、自分たちで考えて、自分たちの現場に落とし込めば、お客様に情報を伝えるにはちょうどいい機会になるのです。

田口 自分たちの使命を、顧客から気づかせてもらう。まさに、顧客の声から「自分たちの天命」を知る活動ですね。

田村 私が見るかぎり、優秀なセールスほど、相手の話を聞いているものです。ダメなセールスは、オウムのように上司からの指示をしゃべって終わりです。

そもそも、セールスがいくら売りに行ったって、お客様がちょうどそれを求めていらっしゃるタイミングでもないかぎり、ただただ余計なお世話なわけです。どれほどキリンのことを訴えても、「それは、キリンの都合だろ」と思うだけで、話も聞いてくれない。キリンが人気がなくなってからは特にそうでした。

聞くことは、とても効率的です。お金もかかりません。相手から10個教えていただいたら、そのなかには必ず、いくつか「なるほどな」と思うことがある。それだけは、きちんとやる。それを相手に報告すると、ものすごく喜んでいただけます。

田口 人間は、無視されると腹が立ちますが、きちんと受け止めて、聞いてもらうと嫌な気はしません。きちんと答えを返せば、「じゃあ、次回来たら、もうちょっと考えてやろうかな」という気持ちが生まれてくる。

田村 おっしゃるとおりで、われわれも高知のお客様に喜んでもらいたいと思うから、お客様一人ひとりに対して丁寧になっていった気がします。それまでは、「やる仕事がいっぱいあって手が回らない。面倒くさいなあ」という感じでしたが、お客様のお話を、ものすごく真剣に聞くようになりました。

田口 以前は、本社からいわれて「やらされている」と思っていたわけです。「やらされている」と思っていて、顧客一人ひとりに対して心を込められるはずはありませんね。

田村 そうなのです。本社からいわれたことだけを、やっていた。みんな忠実なキリンの社員ですからね。「やりました」と本社に報告すると、本社は安心する。覚えもめでたくなる。だけど、「お客様のために」やっているわけではなかった。本社のための内向きの仕事であって、お客様のための外向きの仕事ではなかったのです。

※本稿は、田口佳史・田村村潤著『人生に奇跡を起こす営業のやり方』(PHP新書)より、一部を部抜粋編集したものです。

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