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お客様を幸せにしたい! 理念が強い現場をつくる~田村潤・キリンビール元副社長

マネジメント誌「衆知」

2018年09月05日 公開 2018年10月17日 更新

田村潤 キリンビール
 

全社を改革し、シェア奪回を実現した奇跡の実践哲学

上からの指示をこなすだけで、現場の社員が自主性を発揮しない。理念が全社に浸透していない。そんな悩みを持つリーダーは少なくないだろう。元キリンビール副社長の田村潤氏もその一人だった。だが、「負け続けの苦戦地域」だった高知支店の現場で「理念の実践」に徹底して取り組んだ結果、奇跡的な成功をもたらす。そして、他地域の支店や本社までも改革し、トップシェアの座を奪回する大仕事を成し遂げた。はたして、キリンビール復活の立役者が語る「方程式」とは。
 

田村潤(たむら・じゅん)
1950年東京都生まれ。成城大学経済学部卒業後、1973年キリンビール株式会社入社。1995年高知支店長に就任し、2001年県内トップシェアを奪回。その後、四国、東海地区の営業本部長として各地域のシェアを反転させ、2007年本社代表取締役副社長兼営業本部長に就任。’09年全国でのシェア首位奪回を果たした。2011年より100年プランニング代表。

取材・構成:高野朋美
写真撮影:白岩貞昭
 

メンバーの行動スタイルに目を向け、働きかける

私がキリンビール高知支店に支店長として赴任したのは、45歳の時、1995年のことでした。

それまでのキリンビールには、商品をお店に置いてもらうといった営業力は全くといっていいほどありませんでした。長い間、独占禁止法への抵触が懸念されるほど高いシェアを占めた時代が続いたため、営業らしい営業をほとんどしてこなかったからです。

しかし、飲食店に的を絞って営業するとなった時、初めて営業マンから「毎月200軒の飲食店を回る」といった具体的な目標が出てきました。指示された業務をこなすので精一杯だったメンバーが、チームリーダーと話し合いながら「これだけはやり切る」とみずから考え、決め始めたのです。「自分で考えるセールス」が芽を出した瞬間でした。

とはいえ、決めただけでは意味がありません。やった結果がどうだったかを検証しなければ、本社からの施策を中途半端にこなしていた「やりっぱなしの営業」と同じです。そこで月1回、チームリーダーとメンバーが顔をつき合わせ、やったことを一つひとつ検証していく「結果のコミュニケーション」を行ないました。

自分が決めた目標を達成できなかったのなら、その理由は何か。努力が足りなかったのか。次にどうすればいいのか。それぞれで徹底的に突き詰めていったのです。

これを続けていくうちに、まずチームリーダーに変化が起こりました。1つは、みずから現場に足を運ぶようになったことです。

たいてい、部下は上司にいい報告しかせず、目標を達成できなければ、あれこれ言い訳をしがちです。それを見抜き、結果を正しく検証するには、上司自身が現場に足を運んで、現場の事実を把握するしかありません。それも部下と同行するのではなく、1人で行くこと。部下は都合のよい店に上司を連れて行こうとしますから。

チームリーダーはそこで気づいたことをメンバーに指示するのではなく、行動スタイルを変えてもらうよう働きかけをしていました。そうしないと、部下は「上司の言うことを聞いておけばいい」となり、自分で考えなくなってしまいます。チームリーダーが現場の細かい状況まで把握していると、「結果のコミュニケーション」をする上で話し合いの材料が増えます。そうすると、「こんなやり方もあるよね」「次はこうやってみたら?」と、アイデアが出てくるようになるのです。

これによって、徐々にメンバーの行動スタイルに変化が訪れました。単に飲食店を回って「キリンをお願いします!」と言うだけではなく、店主の心をつかむにはどんなトークをしたらいいか、短い時間で好感を持ってもらうにはどうすればいいか。そういったことを1人ひとりが本気で考えるようになりました。

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理念、ビジョンの共有で、行動が劇的に変わった

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