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「やらなかった」後悔の記憶が、健康に及ぼす悪影響

2019年01月28日 公開

増本康平(神戸大学大学院准教授)

人生の受容に影響する重要な記憶

高齢期の記憶を含むいくつかの認知機能は加齢とともに低下しますが、そのこと自体が高齢者の幸福感や精神的健康に悪影響を及ぼすのではありません。

むしろ、加齢とともに物事の良いところに目が向き、記憶し、そして思い出すこと、加えてこのような情報処理の質的な変化が高齢期の感情のコントロールに良い影響を及ぼすことについて述べました。次に、人生の受容や人生の幸福において重視されている記憶についてお話しします。

それは後悔です。「後悔したくない」という思いは、誰もが持っているのではないでしょうか。しかし、後悔は、怒り、不安、恐怖、悲しみといったネガティブな感情の中でも、経験する頻度が多い感情だと言われています。

後悔は、苦痛をともなった認知的感情と定義され、選択した行動と選択しなかった行動とを比較し、後者のほうが良い結果が得られたと感じた時、「もし、違う選択をしていたら、より良い今があったのではないか」という考え(反実仮想)によって生じます。

また、いつもと違う選択をした場合、選択肢が多い場合、あと少しで成功した場合に後悔が強まることが示されています。

若い時は、後悔しても、将来同じような状況になった時には、別の選択や行動をとることで、その後悔の経験を良い将来につなげることができます。

しかし残された時間が限られている高齢期では後悔を解消することは難しくなります。高齢期の精神的な健康状態を維持し、抑うつを防ぐうえでは、後悔を抱かないようにすることが重要だと指摘されています。
 

後悔の感情があふれることを防ぐいくつかの方法

では、どうすれば後悔を防ぐことができるのでしょうか。

一つは、これまでの高齢者がどのような後悔を抱えているのかを参考にすることです。たとえば、末期のがん患者が死ぬ間際に感じた人生の後悔をまとめた、大津秀一『死ぬときに後悔すること25』という本があります。

その中には、健康を大切にしなかったこと、自分のやりたいことをやらなかったこと、他人に優しくしなかったこと、仕事ばかりで趣味に時間を割かなかったこと、会いたい人に会っておかなかったこと、生と死の問題を乗り越えられなかったこと、愛する人に「ありがとう」と伝えなかったこと、というように健康や社会生活、そして心理的なことに関連するものなど、多様な後悔がカテゴリーごとに紹介されています。

25の後悔を眺めていて気がつくのは、「行ったこと」に対する後悔よりも「行わなかったこと」に対する後悔のほうが多いことです。

後悔は大きく、○○しなければよかった、という「行ったこと」に対する後悔と、△△すればよかった、という「行わなかったこと」に対する後悔に分けられます。

人は最近のことを振り返る短期的視点では「行ったこと」をより強く後悔し、人生を振り返る長期的視点では「行わなかったこと」をより強く後悔する傾向があります。

そして行わなかった後悔は、自分が死ぬ間際では解消できないものばかりです。

「やり残し」の後悔は、人生において大きなインパクトがあることも実証されています。会いたい人に会っておくには、自分が移動できるだけ健康であり、なおかつ相手が存命の必要があります。

先人が、人生の最後にどのようなことに後悔していたかを知ることは、悔いのない生き方を考えるうえで説得力のある指標の一つとなるのではないでしょうか。

もう一つの後悔の解消の方法は、記憶の再構成です。

私たちの経験や経験に対する評価は、その後の経験で常に書き換えられます。経験した事実は変えられませんが、事後情報効果にあったように、その後の経験が過去の後悔や嫌な思い出を再解釈するきっかけを与えてくれる可能性もあります。

エリクソン教授は、高齢期の心理社会的発達課題である絶望と統合のバランスに必要なものを挙げています。

それは、これまでの経験を思い出し再検討しようとする意欲。そして、年老いても成長し続けるためのやる気と努力です。

年老いても成長し続けるためのやる気と努力を失わなければ、たとえやり直しのきかない後悔があったとしても、その後悔から得た教訓や後悔の意味を見出すことで、それらの経験が無駄ではなかったと思うことができます。

また、高齢者の多くが望むピンピンコロリという死に方は難しいものです。寿命と健康寿命の差が約10年はあるのですから、その健康ではない10年間をどう悔いなく過ごすかが、人生の受容を考えるうえで、とても重要となるのです。

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