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日本のものづくりを支える 「放電精密加工研究所」 の危機を解決したアメーバ経営

二村勝彦(株式会社放電精密加工研究所会長)

2019年08月07日 公開 2019年08月07日 更新

 

「まずは、お客様が儲けてくださる」ということを考える

二村勝彦(株式会社放電精密加工研究所会長)

――なるほど。時代、時代で日本社会に求められてきたものづくりに関わり、裏方となって社会を支えてこられたのですね。

(二村)たしかに「金型」の分野では、時代を象徴する製品作りのお手伝いができたかもしれません。その一方で、放電加工のもう一つの特徴である「金属加工において、硬い素材の削りに強い」という点を生かすことも、考え始めました。そして「硬い素材で複雑な形に加工すること」が求められる仕事はないかと探していき、出会ったのが航空機のエンジン部品の加工です。ちょうど、昭和40年代前半のことです。

航空機エンジンや宇宙ロケットなどの部品は非常に熱に強い素材であり、とても硬い。そこに普通の刃物(工具)では削れないような極細の孔や高精度な溝を加工するお仕事があり、当社のコア技術をもってお客様のニーズにお応えしました。

――それは、とても高度な能力を要する仕事かと思います。御社の技術力のレベルの高さが感じ取れます。

(二村)なお、航空機のエンジン部品加工の仕事では、常に熱にさらされるエンジン部品がたくさんあります。そこで今度は「耐熱、耐腐」というキーワードを打ち出し、金属の表面処理技術をアメリカから導入しました。そして、その分野でも積極的に仕事を展開するようになったのです。

――事業の多角化に対して、積極的に挑戦する風土があるのですね。

(二村)実は当社は、金属をプレス加工する機械も製造販売しているのです。そもそも、放電加工機を、当社オリジナルでたくさん作ってきました。そのような大型機械を作るノウハウを活かし、プレス加工の機械の製造にも、本格的に乗り出したのです。

プレス機はヨーロッパと日本で非常に発達し、日本にはたくさんの優秀なプレス機メーカーが存在します。それでも当社は独自の製品開発に取り組み、自動車の変速ギア部品を、機械で削って作るのではなく、プレス加工で作れるようにする機械を生み出したのです。

この変速ギアは相当な精度が求められるため、従来の構造のプレス加工機ではできません。当社のプレス加工機は、たんに圧力で押しているのではなく、独自に開発した制御装置により4本の軸で圧力をかける際、常に金属と金型を平行に保つことで精度の高い加工を実現しました。そして今日では、当社が製造したプレス機を販売すると同時に、当社内でプレス機による部品加工も提供しております。

――放電加工を軸に様々な「モノづくり」へ手を広げておられることが良くわかりました。そもそも御社の仕事はいつも独創的ですし、大企業と組んだ際にも、ゼロから何かを生みだすスタイルですね。非常に付加価値が高い仕事だと思いますので、基本的に利幅が大きいのではないですか?

(二村)いやいや、そんなに利幅が大きいわけではありません。確かに、昭和30~40年代は、高い利益率で成長してきましたが、技術はどんどん普遍化していきます。世の中の変わり目は早いですから。いまは、必ずしも高利益率の業態ではありません。

私が考えるに、経営でもっとも大切なのは、取引先のお客様との信頼関係です。当社は、もちろんできるだけ高い利益率を求めていきますが、こちらが利益を取ってしまうのではなく、「まずは、お客様が儲けてくださる」ということを考えます。

お客様の利益にきちんと資する仕事をしないといけない。そこで、お客様と本当にがっちりスクラムが組めるかどうかが重要になってくるのです。
当社の独創技術を大手企業様から高く評価していただき、これまでにないものづくりに必要な開発をお客様とともにおこなってきたことで信頼関係を深めてきました。

当社の独自技術をもちいてお客様のニーズに高付加価値なかたちでお応えしてきたということです。

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