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進歩軸に沿う研究開発をめざす~塚越寛・伊那食品工業最高顧問

マネジメント誌「衆知」 PHP言志錄

2019年10月16日 公開 2019年10月16日 更新

進歩軸に沿う研究開発をめざす~塚越寛・伊那食品工業最高顧問


 

規模や効率性ばかり追い求めるのは「経営者のエゴ」である

2013年、ユネスコの無形文化遺産に「和食 日本人の伝統的な食文化」が登録されました。

和食は、健康的な食生活を支える栄養バランスに優れたスーパーフードとして、海外でも高く評価されています。最近の研究からも、みそ、醤油、豆腐、梅干しなどの伝統食品の素晴らしさが見直されています。

当社のメイン商品である寒天も、江戸時代に京都で初めて製法が編み出された、日本オリジナルの伝統食品の一つです。

寒天の成分は、そのほとんどが食物繊維です。100グラム中で約81グラムと、あらゆる食品の中で食物繊維を一番多く含んでいます。

食物繊維は、血圧を下げ、コレステロールを低下させるだけでなく、血糖値も下げるため、肥満を防ぎ、便秘を解消する効果も期待できます。最近では「腸内フローラ」の善玉菌の培養にも役立つことから、よりいっそうの注目を集めています。

寒天は時代の流れやニーズに合わせて、その「かたち」を変えてきました。第二次世界大戦の頃は細菌の培地という極めて戦略的な用途で利用されていたため、日本政府によって輸出が禁止されていました。その影響で、諸外国は粉末状の新しい寒天の開発を目指し、成功します。戦後、これが日本にも伝わって、工業寒天として利用されるようになりました。

当社では、1970年代に研究室を設け、寒天の原料である海藻や生産技術の本格的な研究にとりかかりました。その後、研究開発型企業となるべく、常に全社の一割の人材を研究開発にあて、寒天の研究を続けた結果、沸騰させなくても溶解する寒天や、固まらない新しい寒天の開発にも成功しました。

寒天は時代の変化の中で新しい用途開発を迫られ、単なる乾物としての寒天から、ハイテク素材としての効果を持つまでになりました。その結果、伝統的な和菓子への利用はもちろん、細菌培地、組織培養、医療品、バイオテクノロジー向け製品など、最先端の分野でも活用されるようになっています。

当社は、経営理念に「進歩軸に沿う研究開発」を掲げ、寒天とともに一歩ずつ成長の道を歩んできました。

「進歩軸」とは、人間が健康で幸せの方向に進むこと。それと直角に交わるのが「トレンド軸」で、一時的な流行やブームを指します。

あくまでも「進歩軸」が基本で、「トレンド軸」はサブですが、企業が永続的に安定成長をするためには、寒天の可能性を信じて研究開発に力を注ぎ、顧客ニーズにマッチする商品づくりに取り組むことが不可欠です。

企業が目指すべきは、「木の年輪」のように年々着実に成長することです。地球の資源には限りがあるのに、いたずらに急成長や規模の拡大、効率性を追い求めるのは、経営者のエゴではないでしょうか。

これからも当社は、地球環境にやさしく、みんなが幸せになる研究開発を求め続けていきたいと思っています。
 

※本稿は、マネジメント誌「衆知」【2019年3・4月号】特集「後進を育てる」掲載記事を転載したものです。

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