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生き方

両目の見えない女性に“即プロポーズ”…8年待ち続けた男性の「本心」

山田清機(ノンフィクション作家),〔撮影〕尾関裕士

2019年11月09日 公開 2022年12月19日 更新

 

もう一度彼女に会いたい

西鉄下大利駅(福岡県大野城市)から徒歩三分ほどの距離に、「レ・グラン」という喫茶店がある。

ギャラリーも兼ねている広い店内には絵画やステンドグラスなどが飾られ、店の奥にはライブ・コンサートを開くのか、ドラムセットとアップライトのピアノが置いてある。道下の夫、孝幸はこの喫茶店の近くで建築事務所「&. Link」を開業している。

待つことしばし。レ・グランに現れた"変わった人"は、穏やかに話すなかなかのイケメンであった。見た目はまったく普通だが、話を聞いてみるとやはり少々変わっている。

まず聞いてみたかったのは、マラガソルでのプロポーズの一件だ。本当に、会ったその日にプロポーズをしたのだろうか。

「はいそうです。初対面で結婚してほしいと言いましたし、その後も、バイトで顔を合わせるたびに、常に結婚してほしいと言い続けました」

なぜ、そんなことをしたのか。生粋の九州男児にとって、それは当たり前のことなのだろうか。

「いや、それまでに好意を寄せた女性は何人かいましたけれど、あんなことを言ったのは初めてでした。他の女性には申し訳ないのですが、彼女はレベルが違ったのです。それまでに会った女性とは格が違いました。ビビビッときてしまったのです」

その時点ですでに道下は右目を失明しており、右目は白濁していたはずである。

「会った瞬間は、彼女が目に障がいをもっているなんて思いもしませんでした。それに、片目が見えないなんて、もう二の次以下の問題でした。一目め惚れというか、ど真ん中というか、私のほうが盲目になってしまったんです」

しかし、当時の道下には交際相手がいた。その男性は同性の孝幸から見ても素敵な人物だったというから、打つ手がなかった。

「いくら私のほうがビビッときても、これは無理だなと思いました。私は2年ほどマラガソルでバイトをしましたが、卒論やら設計やらが忙しくなってきてやめました。彼女は私がやめた後も続けていたと思います」

孝幸は福岡大学の建築学科を卒業した後、建築事務所に就職する。その後何度か職場を変えたが、「おそらく長く勤めることになるであろう会社」に転職することになったとき、それまでの人生でやり残したことはないかと自問自答した。

「そうしたら、どうしても彼女に会いたくなってしまったのです。衝動的に下関に会いに行ってしまいました」

会いに行くといっても、アルバイトをやめてからすでに八年もの歳月が流れていた。手がかりは、実家が下関で本屋をやっているということ以外になかった。孝幸は、それだけを恃みに下関へ向かった。それで会えなければ、縁がなかったと諦めるつもりだった。

実家の本屋を訪ねてみると、道下によく似た母親が店番をしていた。

「警戒されないように来意を伝えましたけれど、緊張しました(笑)。でも、残念ながら彼女はいなかったのです。ああ、こういう縁だったんだと思って、お店を後にしました」

下関から福岡へ戻る途中、孝幸の携帯電話が鳴った。道下からだった。母親が孝幸の来訪を伝えてくれたらしい。道下が会ってもいいという。待ち合わせの場所を決めると、孝幸は勇んでUターンをした。

待ち合わせの場所に現れた道下は、白い杖をついていた。

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「わかった。じゃあ結婚しよう」

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