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日本を「主権国家」と認めていない!? ロシアの強気な言動の根拠

2019年12月10日 公開

小泉悠(ロシア研究者・軍事アナリスト)

 

旧ソ連諸国はロシアの「国内」扱い?

ところが、旧ソ連域内においては、ロシアの立場は真逆になる。

ウクライナ危機や2008年のグルジア(現ジョージア)戦争の際に顕著に見られるように、ロシアは旧ソ連諸国に住むロシア系住民やロシア語話者に対して(国際法上の帰属とは関係なく)R2Pを負っているのだと主張し、法的親国の意向を無視した軍事介入を行った。

また、仮にベラルーシやカザフスタンのように親露的傾向を有する権威主義国家において政変が発生した場合、ウクライナに対して行ったのと同様の介入をロシアが行うのではないかという観測は定期的に浮上するところである。

旧ソ連域外における古典的な国家主権への固執と対比するならば、旧ソ連諸国は半ばロシアの「国内」として扱われているようにも見える。

だが、たしかに歴史的なつながりが深いとはいえ、れっきとした主権国家である旧ソ連諸国をロシアがこのように扱うことは、どのように正当化されるのだろうか。

ひとことで言えば、ロシアの考える「主権」とは、ごく一部の大国のみが保持しうるものだという考え方がその背景に指摘できよう。

ロシア国際法思想の専門家であるメルクソーが指摘するように、ロシアの国際法理解における主権とは、すべての国家に適用される抽象的な概念ではなく、大国のそれを特に指すものであり、大国の周辺に存在する中小国の主権に対しては懐疑的な態度が見られる。

オーストラリア外務省出身のロシア専門家として知られるローもまた、ロシアの言う主権とはごく少数の大国だけを対象とした極めて狭義のものであって、中小国は基本的に主権国家とはみなされていないとしている。

 

プーチン大統領が考える「主権国家」

これについてプーチン大統領は、かつて興味深い発言を行ったことがある。

ドイツのメルケル首相がトランプ政権の成立に際して「大西洋の向こうの同盟国に頼れない時代が来た」と述べたことに対し、「ドイツは主権国家ではない」と述べたのである。

以下、発言を引用してみよう。

「軍事・政治同盟の枠内においては、それ(主権)は公式に制限されています。何をしてよくて何がいけないか、そこに書いてあるんですよ。実際はもっと厳しい。許可なくしては何もしてはいけないのです。許可を出すのは誰か? 上位の存在です。主権を持つ国はそう多くありません。ロシアはそれ(主権)を持つことを非常に重んじます。おもちゃのように扱うわけではありません。それ(主権)は利益を守り、自らを発展させるために必要なものです」

つまり、政治・軍事同盟(ここでプーチン大統領が念頭に置いているのはNATOであろう)に頼る国は同盟の盟主(「上位の存在」)に対してどうしても弱い立場に立たざるを得ず、それゆえに完全な意味での主権を発揮できないということだ。

だが、世界有数の経済力を有し、EUを主導するドイツでさえ「主権国家」とみなされないのだとすれば、プーチン大統領の定義する「主権国家」はおそらくこの世界で10にも満たないだろう。

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