「3日後に死ぬ」 戸川純を震えさせた”恐怖の日野漫画”
2020年01月22日 公開 2024年12月16日 更新
(Photo By Iwah)
ホラー漫画界の巨匠・日野日出志さんの50年に及ぶ漫画家活動を網羅した記念碑的著書「日野日出志全仕事」が2019年12月に発売されて話題を呼んでいる。
幻の怪作「あしたの地獄」など単行本未収録の作品4本や、ちばてつや、古谷三敏、みうらじゅんらのインタビュー、カラー原画コレクション、伊藤潤二や八名信夫との対談などを収録し、ファンならずとも必読の書となっている。
著者は日野プロダクション代表で文筆家の寺井広樹さん。寺井さんがインタビューをおこなう中で特に衝撃的だったと語る戸川純さんの貴重なインタビューをお届けしたい。(聞き手:寺井広樹)
逢魔が刻に聞こえてきた『地獄の子守唄』
――戸川さんがはじめに読まれた日野作品は何だったのですか?
(戸川)それはもう『地獄の子守唄』ですよ。あれはね、逢魔が刻(おうまがとき)だった。
――逢魔が刻?
(戸川)悪魔が降りてくる時間。夕焼けから日が暮れて夜になる間の短い時間。多分夏だったんじゃないかな。小学校の低学年の頃にね、近所に本屋があったんだけど日曜日は休みだから、遠い方の本屋さんにまで足を運んだのよ。
確か少年誌の『キング』だったかな。再録だったと思うんですけど、表紙にでかでかと出ててね、興味を示して手に取ったんですよ。今まで見たことのないようなタッチだったから。
立ち読みなのに堂々と夢中で読んでね。これは褒め言葉なんですけど、怖いとは別に生理的なものに訴えかけてくる気味の悪さがあったの。杉浦茂を彷彿とさせて。
――戸川さんのご著書『ピーポー&メー』でも杉浦作品について書かれていましたね。
(戸川)そう、杉浦茂作品を幼児から子供に少し大人っぽくしたような感じ。幼児の時に杉浦漫画に惹かれた要因のひとつは気味の悪さですからね、変身した時の。日野日出志先生が杉浦茂を嫌いだったらこんなこと言ったら怒られちゃうかも。
――いえいえ、日野先生は杉浦茂先生の大ファンです。
(戸川)あ、ほんとに? よかったぁ。杉浦漫画は恨みとか残酷とかあっさりしてるけど、日野漫画は恨みつらみ、生理的気味の悪さをコッテコテに煮詰めた感じ。その雰囲気が逢魔が刻にぴったりで。
――ウェットな怪奇ですよね。
(戸川)「三日後に死ぬ」と言われて、ドキドキしましたよ。「それは無いだろう。これは漫画だから」って思うんだけど、そんな風にズバリと言われたら、「本当かもしれない」っていう考えが頭の中に浮かんで離れなくて、日野先生の絵と逢魔が刻の空気感にその怖さもくっついて。
――どの辺りが特に怖かったですか?
(戸川)子どもの頃主人公が受けていたいじめ、押し入れのホルマリン漬け、ドブ川に浮かぶ幼児の死体。そういう風景の中で一番怖かったのは、お母さんが主人公を吊るして「うふふ、えへへ」って笑いながら針で刺してた。
それがすごく生理的に本当に怖かったんですね。子供心にお化けとか怪物とかそういうものはあんまり怖くなかったんですよ。でも、それはすごく怖かった。物凄いインパクトがありましたね。
――リアリティのある怖さですかね。
(戸川)リアリティを超えてましたよ。だって、針で開いた穴が大きいんだもん。それがいくつもあるんだもん。読み終わってうちに帰ろうと思ったんだけど、その帰り道の路地からひょいっとその男の子が出てきそうで怖かったですよ。一つの路地を過ぎても、また次の路地、次の路地にひょいって。
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日野漫画はゴキブリと同じレベルの衝撃と機能美を可能にした!