師匠がこっそり教える藤井聡太七段の「意外な弱点」
2020年01月25日 公開 2020年01月27日 更新
なぜか大切なものを忘れてしまう
ここだけの話ですが、藤井の弱点をお教えしましょう。
といっても、将棋をめぐることではありません。
まず忘れ物が多いです。棋士は意外と忘れっぽい人が多い。かくいう私もそうです。
最近は電車の切符をよくなくします。
藤井もうっかりに関してはなかなかのものです。先日は、私の教室に大事な将棋の図面を置き忘れていました。
けっこう忘れているのがカバンです。学校帰りに、あるお宅を訪れた際、学生カバンを忘れて帰りそうになり、「藤井さん、忘れ物ですよ」と声を掛けられて気づきます。
私のマイカーの中に荷物を置いて食事をした後、そのまま帰りそうになり、私もそれを忘れていて、お互い別れを告げた後、もう1人が、「いや、藤井さん、カバンカバン」と気がついてくれました。うっかり師弟ですね。
賞金ランキングベスト12人が争う8月の将棋日本シリーズJTプロ公式戦に向けて藤井は和服を着ることにしたのですが、本人は例によって興味がありません。物欲が極端にないタイプかと思います。色や柄も私とお母さんの趣味で決めました。黒に近い紺です。
あるお店に入った際、あんみつとみつまめで「これはどこが違うのでしょうか」と迷っていました。珍しいから頼んでみようとか、とりあえず頼むといったタイプではありません。これにはこの食材が入っていて、こっちは別の材料で……と理解してから頼むタイプです。
ちなみに1回目はあんみつ、2回目はみつまめを頼んでいました。彼の探求心はこんなところにも表れています。
対局日の食事メニューは毎回かなり変えています。本人も「長考してしまう」と言っていましたが、たしかに将棋より迷っているかもしれません。
一時、藤井が注文したメニューはテレビやネットですぐに報道されていました。リアルタイムで注文のシーンが流れた時は、多くの視聴者が「同じものを食べたい」とそのお店に電話をかけ、具材が品切れになってしまって当の本人がそれにありつけなかったこともありました。
藤井の宣伝効果恐るべしです。
ちなみに注文メニューやお店を毎回のように変えるのは、もしかするとそれぞれの店に対する配慮では? と私は考えています。
どんな場所でも注目されてしまう苦労
研究会の後、藤井を含めた数人で焼き肉を食べに行ったことがあります。
藤井の17歳の誕生日が間近だったので、焼肉屋さんにそれを伝えて予約をしました。
すると、わざわざ奥の予約席を用意してくれて、
「これはお店からのサービスです」
「17」の数字をかたどったろうそくが灯るバースデーケーキが運ばれてきました。予想外のサプライズです。
「誕生日のろうそくを吹き消すのは10年ぶりです」
藤井は困惑しつつ少し照れながらろうそくを吹き消していました。
特別な記念日ではなくても、藤井と食事に行くと、注文していない料理が出てくることがちょくちょくあります。
「頑張ってください」
行きつけの洋食チェーンのお店では、唐揚げの盛り合わせを頻繁にサービスしてくれます。
注文した食べ物が来ずに、サービスの品が続いて驚いたこともありました。
やはりよく行く和食チェーンのお店。藤井と一緒に行くと、女将と料理長がわざわざあいさつに来られました。
「杉本様、本日は当店をご予約いただき、誠にありがとうございました」
文章にすると、いかにも私が歓迎されているようですが、お店の二人の視線の先は明らかに藤井のほうです。
ちなみに私はこの店を何度か訪れていますが、藤井以外と行っても、こんな歓迎をされたことはありません。
こんなとき、私に気を遣ってか、藤井は目を伏せて無関係を装っています。
(いや、「杉本」はそちらの少年でなく、こちらなのですが……)
これは私の心の中の声。
どんな場所でも注目されてしまう。一緒にいると藤井の大変さや気の休まらなさがよくわかります。
もしかしたら当人からすると、気持ちはありがたいけれど、そっとしておいてほしい、ほかの人と同じように対応してほしい、と思っているかもしれません。
近頃はなるべくすいているお店に行くようになりました。