師匠がこっそり教える藤井聡太七段の「意外な弱点」
2020年01月25日 公開 2020年01月27日 更新
史上最年少記録を破りプロ棋士としてデビューし、その後も破竹の勢いで数々の最年少記録を打ち立て続ける棋士の藤井聡太氏。
そんな藤井聡太氏を幼い頃から見守り続けてきたのが、師匠として知られるプロ棋士の杉本昌隆氏。「幼いころ、将棋で負けると盤を抱えて泣きじゃくっていた」と回想する同氏の新著『悔しがる力』より、知られざるその素顔にを明かした一節を紹介する。
※本稿は杉本昌隆氏『悔しがる力』(PHP研究所刊)より一部抜粋・編集したものです。
「悔しがる」のも全力
この領域では絶対に負けない、どんな時も本気で取り組むという姿勢は、当人だけではなく周りにいる人間をも熱くします。藤井と接していると、折に触れてそういう瞬間を味わいます。
将棋会館の控室は、普段は棋士のたまり場になっています。研究会をしたり、一人で詰将棋を解いたりしています。
朝九時半ごろ、その控室に行くと、朝から研究をする人たちでいっぱいです。座る席がなくて困りました。「あれは困るね」と藤井に言うと、「そうですね」と賛同してくれます。(やっぱり藤井も座れなくて困るんだな)と思いながらよく聞いてみたら、全く見当違いでした。
「詰将棋の問題を見てしまったら解かずにはいられません」
と言います。つまり詰将棋を目にした途端、本能的に解こうとして、解くまで気がすまない。
へーっ、さすが「詰将棋解答選手権」五連覇の達人。衝撃のエピソードでした。
ちなみに私は詰将棋を見ても、ハナから解こうとは思わないのでまったく困りません。同じ状況に直面して、同じように困っても、その中身が全然違います。
詰将棋では、つい最近も藤井の本気に触れました。
あるイベント。七手詰めの1分早解き競争で私と藤井、中澤沙耶女流初段の3人が勝負をしました。
最終手を答える形式で、私たちは1問正解につき1点、詰将棋解答選手権覇者の藤井は0.5点というハンディを背負ってのスタートです。
先に答えた私は9問正解。まずまずの数ですが、これで藤井の闘争心に火が付きました。
「師匠にたくさん解かれたので(頑張ります)」
藤井の本気が会場内に伝わります。全神経を集中させ、問題を見ると同時に解きまくる。才能がほとばしります。1問数秒でクリアし続け、なんと17問正解しました。
しかし……勝負はハンディが響いて0.5点の差で私の勝ちとなりました。
「詰将棋で師匠に負けて悔しいです」
よほど悔しかったのか、感想と閉会の挨拶などで3回もこのセリフを口にしていました。
内容的には藤井の完勝です。でも「勝負」と設定した以上、それがどんなに困難でも全力で取り組む。そして全力で悔しがる。
その熱い情感は近くにいて火傷しそうなほど。「本気になる」ことの大切さを感じさせる出来事でした。