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社会

海外旅行デビューで緊急手術! アメリカの病院が請求した「驚きの金額」

さくら剛

2020年02月06日 公開 2020年02月19日 更新

 

旅先での病気は地獄

見回してみると、ここはホテルの部屋ではなく、病室であった。そして隣の椅子にはゆきこさんが座っている。

「あ、気がついた?無事終わったって。今は夜の12時よ」

すごいな。全身麻酔ってこんな感じなんだ。手術室で「麻酔するよ」って言われて、そこから見事に時間も空間もワープ。一瞬死んでたんじゃないかと思うような意識の飛び方。どうやら盲腸だったらしい。

初めてのひとり旅で盲腸にかかってしまうということはまったくよくないがかかってしまったからには解決して本当によかった……。

少し上着をめくって見てみると、ヘソ上の傷口を覆うテープは染み込んだ血液で膨張し、直下に血の泉湧く深い切り口があることを想像させる。

ひとつの傷口は小さいようだが、他に股間上部とその左側、合計3箇所に同様に血で膨らんだテープが貼られている。どうやら1箇所ではなく、3箇所に小さな切り込みを入れてアプローチする術式だったらしい。

小さい傷とはいえ、それぞれが内臓に達する深さまで切られているので、少しでも動いた時の痛みは猛烈である。

その翌日、私は退院した。しかも午前中に。別に私が映画やマンガの主人公くらい回復が早かったからではなく、ナースにセクハラをして追い出されたわけでもなく、アメリカではそういうものらしい。

盲腸、あるいは出産時なども、こちらでは翌日には退院するのが通常だそうだ。もちろん退院はめでたいのだが、決して傷が治ったから退院するのではなく、治っていないのに退院させられるというのがアメリカの乱暴なところである。

盲腸で手術をしたら、日本では1週間は入院するではないか。なぜ日本では1週間も入院させられるかというと、1週間は入院していた方がいいからだ。

実際、私は病室から出る時に傷口が痛すぎてベッドから起き上がるのに5分、そこから歩いて病室の入り口にたどり着くのにさらに5分かかった。

昨晩0時に私はお腹を切って内臓を一部取り出す手術を受けたのである。お腹に3箇所も、内臓まで達する傷があるのである。

がんばって歩いても、最大歩幅10cm。それ以上で進もうとすると痛みで気絶しそうになる。ホテルへ戻っても、タクシーを降りて部屋に入るまで30分かかった。

ラスベガスはどこのホテルも1階がカジノになっているのだが、多国籍の遊戯客で賑わうカジノの真ん中を歩幅10cmでじりじりと進んでいる私の姿は、周りから見るとなかなかの異形のものとして映ったであろう。

結局、私はラスベガス残り2日をひたすらホテルのベッドで寝て過ごし、手術の3日後に長距離バス・グレイハウンドで5時間かけてロサンゼルスへ移動。

さらにその翌日、早朝から飛行機に12時間ほど乗り、日本へ帰国した。日本の基準ならまだ余裕で入院しているはずの期間に、私は一人でバックパックを引きずりバスと飛行機を乗り継いで、ラスベガスから日本へ帰ったのであった。

 

一度目の旅行で万が一の状況になった私

旅とはトラブルの連続。SNSで映えている旅写真なんて、氷山の一角、掃き溜めの鶴。あのセレブな友人も有名ブロガーも、ネットに載せている優雅な瞬間以外はずっとこんな具合で苦しんでいるのである。

誰だってそう。海外旅行なんて、ほんの一瞬の撮影タイム以外はずっと腹痛だからね。

9割以上の時間は悶絶、1割だけは優雅、それが旅というものだ。本当だ。9割増しで大げさに言ってはいるが、本当だ。

これから旅に出る人たちに私がアドバイスしたいのは、月並みではあるけれど、海外に行く時にはなにがなんでも海外旅行保険に入りましょうということだ。

アメリカから帰国後に保険会社に問い合わせたところ、私の1日の入院でかかった費用は、2万ドル以上。

つまり、200万円を超える金額が、私の腹痛を止めるために投入されたのだ。

それだけの治療費がかかっても、保険のキャッシュレスサービスのおかげで私はタクシー代以外、一切自腹を切ることなく(自分の腹は切ったけどねっ‼)、お金の心配をまったくせずに治療を受けることができた。

もちろんホテルまで出張してくれたドクターや、ゆきこさんへの通訳代も、すべて保険で賄うことができた。もし保険に入っていなかったら……。

海外では前払いで料金を支払わないと検査すら受けられない病院も珍しくない。

200万円などという大金をポンと払えるわけがない私は、あの時もし保険に入っていなかったら、治療費を稼ぐためカジノで全財産をかけた一発勝負に出て、結果砂漠に埋まる遺骨となっていたかもしれない。

バックパッカーの中には、無保険のため病院にかかれず、旅先で亡くなってしまった旅行者もいる。命も健康も、この世界ではたくさんお金を払える人から順番に助かっていくものだ。

万が一のために保障の大きな保険に入っておくのは、自分のためでもあるし、日本で待つ家族のためでもある。「万が一」は、次の旅に出るあなたの背後にヒタヒタと迫っているのだから。

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