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移民の犯罪率は実は低い?…イメージと実態のギャップに揺れる「移民の国」アメリカ

西山隆行(成蹊大学法学部教授)

2020年02月21日 公開 2022年01月26日 更新

 

中南米系の特殊性?

トランプは中南米系移民に批判的な発言を繰り返し、アメリカ=メキシコ国境地帯に壁を建設すると宣言している。

トランプの発言が注目を集めた背景には、人口動態の変化がある。中南米系の数は2011年段階で人口の17%と既に黒人(12%)を上回っており、2050年までに人口の3割に達すると予想されている。

中南米系移民が争点となるのは、数が多いことに加えて、彼らには従来の移民と違う特徴があると考える人が多いからである。

中南米とアメリカは地理的に近接していることもあり、中南米系には出稼ぎ感覚で来ている移民も多い。

外貨獲得を目指す中南米諸国がアメリカに行った移民に二重国籍取得を促してつながりを確保しようとしていることもあり、中南米系はアメリカに対して十分な忠誠心を持っていないと考える人もいる。

また、アメリカでは国籍について出生地主義原則が採用されているため、不法滞在中の人の子どもであっても、国内で生まれた者には国籍が付与される。そのようにして国籍を取得した子どもが21歳になれば家族を呼び寄せるのが容易になるため、不法移民がこの制度を活用しようとしているのではないかとも批判されている。

中南米系が白人労働者層の職を奪っているとか、社会福祉政策を悪用していると主張する人もいる。

また、アメリカで流通している麻薬の多くがメキシコから流入していることもあり、中南米系移民が犯罪率を押し上げているという議論もなされている。

実際には、中南米系移民に対する批判は妥当でないところが多い。

歴史的に見て、出稼ぎ感覚で移民してきた人は常に存在したし、移民の子どもが出生地主義原則に基づいて国籍を取得するのも当然だった。

白人労働者層の仕事が減少している主な原因は、産業構造の変化と機械化である。

移民は基本的に公的扶助を受給することができず、年金を受給するには10年間の社会保障税の納入が必要なため、社会福祉制度に大きな負荷をかけていない。

むしろ、不法移民は社会保障税を納入しているが年金を受給しないので、年金財政に貢献しているともいえる。移民の犯罪率は標準的なアメリカ人と比べて低く、麻薬を持ち込む人はごくわずかである。

このように、実態とイメージの間には大きなギャップが存在する。

だが、上述のようによくないイメージを中南米系に対して抱く人々が多い以上、トランプ的な発言が支持される可能性がある。

誤解や偏見に基づいて、例えば福祉受給資格の厳格化や犯罪対策強化などの政策が打ち出される結果、様々な領域において政策的合理性が損なわれつつあるのである。

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