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移民の犯罪率は実は低い?…イメージと実態のギャップに揺れる「移民の国」アメリカ

西山隆行(成蹊大学法学部教授)

2020年02月21日 公開 2022年01月26日 更新

 

合法移民と不法移民の問題

留意すべきもう一つの点は、実はアメリカの骨格をつくったのは、「WASP」(白人でアングロサクソンのプロテスタント)の入植者だということである。

建国者たちが独立宣言や合衆国憲法で宣言した自由や平等などの価値が、アメリカ的信条と呼ばれるほどまでにアメリカ社会に定着したのである。この点を考えれば、アメリカにとって移民は両義的な存在であることがわかる。

一方では、アメリカへの移住を志す移民はアメリカの理念に憧れてやってきたと考えることも可能であるため、アメリカの理念の素晴らしさを体現する存在といえよう。

他方では、アメリカ的価値観の基盤を掘り崩す危険性を秘める存在でもある。

この点を考えれば、移民政策として、どのような移民を、どの程度の数受け入れるかが重要となる。

今日、アメリカは毎年平均して70万人程度の合法移民を受け入れている。それに加えて、現在では1100万人ほどの不法移民が国内に居住している。

このうち、合法移民を一定程度受け入れることについては、アメリカ国内でもコンセンサスがある。

もちろん、その数が多すぎるのではないかとか、受け入れの基準としてアメリカ国内に居住する人との血縁を重視すべきか、できるだけ多様な移民を受け入れるべきか(実際に多様性を確保するための抽選プログラムが存在する)、それとも入国希望者が持つ技能を重視して受け入れを決定すべきかなどについては論争がある。

だが、一定数の移民を受け入れるのは当然とされていて、そもそも移民を受け入れるべきかどうかが大争点となる日本とは前提が違っている。

アメリカで、政治的に大争点となっているのは、むしろ不法移民の処遇である。

不法越境したりオーバーステイしたりして違法に居住し続けている人々をそのまま放置することには問題があると考えられる一方で、例えば、子どもの時に親に連れてこられてからアメリカ国内に居住し続けているような人(彼らは「ドリーマー」と呼ばれる)に不法滞在の責任を問うことの妥当性については議論が分かれる。

そもそも、1100万人も存在する不法移民を全て強制送還するのは現実的に困難である。

 

移民問題と政党政治

このような状況で、不法滞在者の処遇をめぐって論争が展開されているが、注意すべきは、不法移民対策についての賛否は本来は党派を横断して存在するということである。

民主党支持者のうち、不法滞在中の近親者や知人を持つ人々が不法移民に寛大な態度をとる一方で、不法移民は安い賃金で働き労働賃金を下げる可能性が高いことから、労働組合は伝統的には不法移民に厳格な態度をとってきた。

他方、共和党内では、トランプの岩盤支持層は厳格な不法移民対策を求めるが、労働賃金を下げたいと考える企業経営者層は不法移民に寛大な態度をとるのである。

2016年大統領選挙以後、移民・不法移民問題について共和党が厳格で、民主党が寛大な態度をとっているのはトランプによる影響が大きい。この傾向が10年後も続くと想定すべきでないだろう。

このような状態で何らかの移民改革を実現するためには、党派を超えた呉越同舟的連合を形成する必要がある。

具体的には、一定数の不法移民に合法的に滞在するための許可を与えることと、以後の出入国管理を厳格化することの抱き合わせ策が法制化可能な組み合わせだと考えられてきた。

ここでいう合法的滞在許可には様々な形態があり得て、市民権付与まで想定されるのは稀だが、永住権を与えるべきか短期的な労働許可のみを与えるべきか、労働許可はどの程度まで更新可能にすべきかなどについて立場が分かれている。

ロナルド・レーガン政権(1981~89年)以後、このような方針に基づき、幾度となく移民改革法案が提出されてきた。

だが、トランプ政権は議会を通した立法ではなく大統領令で出入国管理の厳格化を進めてきた。

その結果として、今日のアメリカでは上記のような移民改革法案(包括的移民改革法案と呼ばれることが多い)の実現の可能性は狭まっている。

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