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「疫病の流行は政治が悪いから」感染症に苦しめられた日本人の古代史

2020年03月16日 公開

奥田昌子(内科医・著述家)

 

疫病の蔓延は「政治が間違っているから?」

712年に成立した『古事記』、720年成立の『日本書紀』のいずれにも、古墳時代には伝染病がたびたび流行して多くの人が亡くなったという記述があります。ただ、流行病を意味する疫病としか記載されておらず、具体的な病名はわかりません。

古墳時代には大陸から医師が来日し、天皇など身分の高い人の治療にあたっていました。しかし病気の原因も治療法も不明なため、素朴な薬草治療を行うのが精一杯だったようです。

代わりに重視されたのが加持祈祷でした。病気は神仏のたたりで、とくに全国レベルの疫病は政治が間違っているせいだと信じられ、たびたび大規模な祈祷が行われました。この考えかたは室町時代まで続きます。

疫病をしずめるために宮中で行われていた儀式のなかには、のちに庶民に広がり、形を変えて現代に伝わるものがあります。

お屠蘇、節分の豆まき、ひな祭り、5月5日に菖蒲の葉を飾る風習、茅の輪くぐりなどがその例で、5月5日は611年に推古天皇が大規模な薬草狩りを行った日です。

古墳時代には、壁ぎわに調理専用の竈を作り、煙突から煙を外に逃すようになります。日本一巨大な前方後円墳で知られる仁徳天皇の治世は5世紀前半ごろとされています。

『日本書紀』によれば、ある日のこと、天皇は高台から集落をながめて、民家の竈から煙が上がっていないのに気づきました。民の生活が苦しいことを知った天皇は、数年間課税をやめて民を救ったそうです。

竈では米を煮るのではなく、おこわのように蒸して食べていました。このとき使ったのが稲作とともに大陸から伝わった甑(こしき)という土器です。現代の蒸し器のような構造で、米を布で包むか、かごに入れるかして蒸したようです。

横浜市にある古墳時代の遺跡からは、木の皮で編んだ弁当箱に入ったおにぎり8個が見つかっています。餅米の玄米を蒸して、団子のように固めてありました。古墳時代から平安時代にかけて北九州の防衛にあたった防人も、蒸した餅米を固めて携帯したようです。

 

天然痘が引き起こした内乱

6世紀後半、聖徳太子の祖父にあたる欽明天皇の時代に、大陸から百済をへて日本に仏教が伝来しました。それからまもなく、瘡(かさ)、現代でいう天然痘の記述が『日本書紀』に登場します。

僧をはじめとする仏教関係者が多数来日するなかで、天然痘ウイルスが持ち込まれたと考えられます。

天然痘は急激な発熱や頭痛、関節痛で始まる感染症で、数日たつと発疹があらわれます。発疹は水ぶくれになって膿がたまり、やがて、かさぶたに変わることから「かさ」と呼ばれたのでしょう。死亡率が20~50パーセントにのぼる危険な病気で、回復しても発疹のあとが「あばた」として残りました。

『日本書紀』によると、瘡にかかった人が国中にあふれ、「身を焼かれ、打ち砕かれるようだ」と言い、泣きながら死んでいったというのですから、まさにこの世の地獄です。

人々は、天皇が仏教を嫌い、仏像を焼かせたことで仏罰がくだったのではないかと噂しました。その当時、海外から伝わった仏教を重んじる蘇我氏と、従来の神道を尊ぶ物部氏のあいだで緊張が高まっていたのです。

このときの流行が引き金となって、587年には、ついに丁未(ていび)の乱という内乱が勃発します。

この戦いに勝利した蘇我氏は権勢を強め、血縁関係にある推古天皇を擁立して、同じく蘇我氏の血が流れる聖徳太子を摂政にすえ、みずからがこれを補佐する政治体制を作りました。

こうして仏教が急速に浸透するかに見えましたが、熱心に信仰したのは蘇我氏をはじめとする豪族にとどまり、庶民は昔ながらの自然崇拝や祖先崇拝を基礎とする神道に近い考えかたを行動の指針にしていたようです。

天然痘は近代まで繰り返し流行し、人類が天然痘の撲滅に成功するのは21世紀も近づく1980年のことです。

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