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野村克也氏が回想する「飯田哲也・奇跡のバックホーム」から学んだもの

2020年03月16日 公開

野村克也(野球評論家)

野村克也
(撮影:荒川雅臣)

名選手にして、名監督。日本プロ野球きっての"アイデアマン"でもあり、多くの著書を著した”作家”とも。多くの人々に親しまれた野村克也氏の逝去の報に、日本が驚きと悲しみに包まれた。

その野村氏が旅立つ直前に上梓した書『リーダーとして覚えておいてほしいこと』において、選手を信じることの「本当の意味」を飯田哲也選手のバックホームを回想しながら丁寧に語っている。本稿では、同書よりその一節を紹介する。

※本稿は野村克也著『リーダーとして覚えておいてほしいこと』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです

 

「信じる」には2通りの意味がある

リーダーが選手を育てるには、まず選手を「信じる」ことから始めないといけない。「信じる」ことによって、選手のモチベーションを触発して、奮起させるのだ。

「信じる」には、「信用」と「信頼」がある。

「信用」は文字通り、信じて用いること。
「信頼」は信じて頼ることだが、任せっぱなしにするというニュアンスもある。

同様のことを「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助さんが言われていたそうだ。

「任せて任せず」。

その仕事を一番好きな人に任せるのが、好結果が出る場合が多い気がする。

だが、任せっぱなしにしてはいけない。しっかり見ていて、「このままではまずい」と思ったらしかるべき策をとらなければならない。いずれにせよ、最後は経営者がすべての責任を持つ覚悟で臨まなければならない。

しかしこの「任せて任せず」のバランスが難しいと思う方もいるだろう。どこまで選手に任せて口出ししないか、大事故が起こる前に口出しするか。

ここでは、口出しをしなかったことが奏功したときの話をしよう。

 

黄金時代の西武ライオンズの牙城を崩した、飯田哲也の「奇跡のバックホーム」

飯田哲也(ヤクルトほか)は捕手から中堅(センター)にコンバートした
91年から7年連続ゴールデングラブ賞を獲得。92年日本シリーズ第7戦、7回表2死1・2塁。中堅・飯田は、打席が9番・投手の石井丈裕ということもあって前進守備をとった。

だが意に反して、いい当たりのライナーが頭上を襲った。飯田は必死にバック。捕球体勢に入って一瞬安心したのか、打球はグラブをかすめて安打になった。ヤクルトは日本一をあと一歩のところで逃した。

しかし、「飯田でなかったらあそこまで追いつかなかった。仕方ない」とナインが語ったほど、飯田の好守は幾度となくチームのピンチを救っていた。

93年日本シリーズ、2年連続のヤクルト対西武である。第4戦、ヤクルトが1対0とリードした8回表2死1・2塁のことだ。中堅を守るのは言わずもがな飯田。

「前年のこと」があったにもかかわらず、飯田は果敢に前に出て守った。セオリーで言えば「二死なら定位置に戻る」なのだが……。

これはすなわち、私を含め、ナインの飯田の守備に対する「信用」が絶大だったことを意味する。

打者・鈴木健が中堅前安打。飯田は俊足を生かして打球へ好スタート、捕ってからテークバックが小さく、助走はワンステップ。捕手による盗塁刺のような投げるまでが実に早い送球だった。

バックホーム、その距離約70メートル。捕手・古田敦也にダイレクトのストライク返球で二塁走者・笘篠誠治を刺した。同点は覚悟していたが、西武に傾きかけていた流れを引き戻し3勝1敗、ヤクルト日本一の呼び水となった瞬間だ。

前年まで日本シリーズ8勝1敗(1敗は、85年阪神日本一)の、王者・西武の牙城を崩した。球界の勢力地図を塗り替えた「世紀のバックホーム」だった。

リーダーは部下を「信用はしても信頼はしない」「任せて任せず」。部下に任せた以上、ある程度任せないと部下は育たないが、最終的には自分がすべての責任を持つ覚悟で臨まなければならない。

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