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感染症ショックで加速!? 「史上最悪の大量閉店」に追い込まれたアメリカ小売店

石塚しのぶ(日米間ビジネス・コンサルタント/Dyna-Search, Inc.代表)

2020年03月23日 公開 2023年01月25日 更新

 

米国のライフラインとなった、企業4社の理由

アメリカで量販店が台頭してきた1970年代、80年代には、サプライ・チェーンの川上から川下へと流れてくるモノを、生活者はありがたく買っていた。

「何が入手可能か」は、供給者である企業側の都合により決定されていた。

しかし、そういう時代は既に終わった。米国のライフラインとなった4社に共通しているのは、「顧客視点」の徹底といえる。

「顧客志向」ということは90年代から経営書などで取り沙汰されてきた。

しかし近年、インターネットの発展を背景に、それがれっきとしたビジネス・モデルとして、産業構造として実装されてきている。

企業が顧客視点からあらゆることを考え、遂行することが迫られているといっていいだろう。

小売業界を例にすれば、店舗でしか買い物ができなかったころには、開店時間中に運賃と時間をかけて店舗を訪れ、足を棒にして商品を探し回り、買ったものを抱えて自宅まで帰らなければならなかった。

それがEコマースによって顧客は24時間、いつでも、どこでも、自分が必要なタイミングで必要なものを購入でき、しかも自宅まで購入した品物を届けてもらえるようになっている。

アメリカのタクシー業界にも、Uberのようなライド・シェアサービスによって、文字通り革命がもたらされた。

かつては乗ってみなければ価格も、時間も、ドライバーの質もわからないアメリカのタクシーだったが、

価格も時間もドライバーの質も配車をリクエストする時点で明らかとなり、利用者は安心して車に乗ることができるということが、「サービス・モデル」として実現した。

今、米国のタクシー業界は惨憺たる状態だが、当然といえば当然の結果にすぎない。今後、同様なことがタクシー業界以外でも次々と起こっていくだろう。

「顧客志向の実装」の波はもう止めようがない。それに抗うものは容赦なく淘汰され、その勢いはより激しく、より一層目まぐるしいものになっていくはずだ。

Eコマースビジネスによる従来型ビジネスへの影響は、広大な土地や人口の多さから、アメリカにおいては日本と比較にならないくらい顕著だ。

日本においては一部の業界にとどまっているが、こうした波はあらゆる業界に訪れる恐れがあるといっていいだろう。

 

テクノロジーの進歩は顧客と企業の人間性を取り戻す

商品やサービスの購入者が「人」である限り、技術の開発がどんなに進んでも本質的に求めるものは変わらない。

人は皆、ひとりの人間として認識され、気遣われたいという願望をもっている。しかし過去、多くの企業が顧客を数字や金額としてしか見てこなかった。

インターネットの発展により、個々の顧客のデータが把握、蓄積できる時代になった。これにより、膨大な数の顧客をひとりの人間として認識し、接することが可能になりつつある。

「企業」と「顧客」の関係性を、「人」と「人」との関係性に変換し、「愛」や「感情」「人間性」を、売り/買いのプロセスの中に注入する企業こそが、新しい時代に生き残るといっていいだろう。

そこで、企業が着手すべきは、「私たちは何者か」をまず見極めることだ。

何のために会社が存在しているのか、社会にどんな貢献をし、顧客と共にどんな未来をつくりたいのか。

どんなことを信じ、何を大切にしているのか。それを明らかにしたうえで、心からの共感者を集め、共通の目的を実現するコミュニティ(共同体)をつくることが必要になる。

顧客に心を震わせる体験を提供するという、売上や利益の創出を超えた長期的な目的を達成していくためには、

うわべや口先だけの宣伝文句ではなく、会社全体が真心からそれを信じ、鋭いフォーカスでもってただまっしぐらに追求していくことが必要になる。

もはや会社は「金儲けをするための組織」ではなく、私たち生活者が住みたい社会をつくるための仕組みであり、ムーブメントであるべきなのだ。

会社の「中身」が、ほんとうの売り物である時代になった。

そんな新しい時代で、各々の会社独自の目的意識(コア・パーパス)と価値観(コア・バリュー)を柱に、日々の事業を運営し、関わる人たちに幸せを提供して共に栄えていくことが一層求められている。

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