「陽性」を瞬時に判定 “AI診断”は医療の未来を救うのか?
2020年04月07日 公開
新型コロナウイルスをきっかけに、医療体制への注目が集まっている。再びこうした事態が起きた時、いかに迅速で正確な診断を実現し、人々の不安をなくしていくか。一体どのような体制を築いておくべきなのか。その行方を左右するのが、「AI医療」の進歩である。
AIによる画像診断の技術が向上し迅速に正確な診断を行うことができれば、陽性の患者を発見するまでのスピードを上げ、取りこぼしを防ぐことも可能になる。インフルエンザの喉の腫れ具合の画像を学習させたAIが、医師が見落としていた陽性の事例を見つけ出したケースもすでに存在するという。
『60分でわかる! AI医療&ヘルスケア 最前線』〔三津村直貴 著、岡本将輝・杉野智啓(TOKYO analytica) 監修〕は、AIの活用によって医療がいかに変わっていくのかを解説した1冊である。本稿では同書より、在宅医療や遠隔医療を支える技術の進歩、その先にある未来の風景について書かれた一節を紹介する。
※本稿は三津村直貴 著、岡本将輝・杉野智啓(TOKYO analytica) 監修『60分でわかる! AI医療&ヘルスケア 最前線』(技術評論社)より一部抜粋・編集したものです。
「医師の診断」を学習するAI
AI診断でもっとも進んでいるのは画像診断です。教師あり学習という手法を例に、もう少し詳しくそのしくみを見てみましょう。
まず、1つ1つの患部画像に対し、たとえばそれが病気か健康か、といった医師の診断を「正解ラベル」として付与します。この役割を担うのは、「教師」である人間です。そういった正解ラベル付きの患部画像を何千、何万と用意し、AIに入力します。
するとAIは、患部画像とラベルの対応関係を見て、どんな画像であれば病気なのか、あるいは健康なのか、といったことを学習していきます。最終的には、ラベルがない画像を見せても、それが病気であるか健康であるか答えてくれるようになるのです。
このラベル付け作業は現場の医療従事者が地道に行う場合が多く、非常に骨の折れる作業です。また、現段階でにおいて医療現場に存在している画像データや検査データはまだ適切なラベル付けがされていないものが多いため、日本のAI医療が早急に解決すべき問題の1つとして知られています。
しかし、このようなビッグデータを用いたAIの分析がより普及していけば、画像診断以外にもさまざまな用途に応用可能です。すでに見てきた遺伝子検査や電子カルテも、多くが機械学習によるアルゴリズムを利用しています。
その意味で、今後、AI医療が発展していくには、正確な正解ラベルが付与された「良質な」データをどれくらい保持し効率的に増やしていけるのか、といったことが重要になるでしょう。
インフル陽性も瞬時に判定 医師すら圧倒する精度
2018年、日本国内におけるインフルエンザ患者数は2,000万人以上となり、史上最大の流行となりました。対策が急務であることは自明ですが、インフルエンザウイルスは体内で増殖するまでに時間がかかるため、発症から12~24時間以降に検査を行わないと判定しにくいといわれています。かつ、検査で陰性だったとしても、感染していないと言い切れないのも難点でした。
そのような状況の中で、人間の医師を圧倒する技術を開発したのが株式会社アイリスです。同社のAIは、インフルエンザの疑いがあるのどの腫れの画像に対し、インフルエンザであるものとそうでないものをAIに学習させ、画像からインフルエンザ感染を瞬時に判定します。
インフルエンザの腫れは患者の約98%に現れますが、人間では熟練した医師でなければ判定が難しかったのです。しかし、AIであれば人間の目視では気付くことのできない細かな特徴も検出することができます。また、鼻腔に綿棒を入れる従来の検査方法と異なり、小型カメラを口の中に数秒入れるだけなので患者への負担も少なく済むのです。
何より、すぐ正確な検査結果がわかれば、陽性の患者が通勤や通学先で感染を拡大させてしまう、といったケースを防ぐことができる、という点においても有用です。
近年ではインフルエンザ以外にも、乳がんや肺がん、脳腫瘍などにおいて、すでにAIは医師以上の精度で発見できることが示唆されています。
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セカンドオピニオンとして頼りになるAI 真の病名を見抜いた例も