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「一夜漬けは効果大!」科学的に正しい目標達成法とは?

長田英知(良品計画執行役員)

2020年07月27日 公開 2023年09月15日 更新

できる限り早く「一夜漬け」してしまえ!

ではどのようにスケジュールを組むと、目標達成に近づくことができるのでしょうか。一言で言うと、それはできる限り早く「一夜漬け」してしまうということになります。

「できるだけ早く一夜漬けってどういうこと?」と思われる方もいらっしゃると思うので、順を追って説明しましょう。

私は、人間の本質は「可能ならば楽して怠けていたい生き物」であると思っています。期間を設定して目標を達成しようとしても、取り組む時間が豊富にあるうちはなかなか努力することができません。学生時代の試験勉強などはその典型ではないでしょうか。

一学期の間あまり勉強せずに過ごしてきた試験の前日、ようやく切羽詰まってその日のうちにすべての学習を完成させようとする。これが多くの方が一度は経験したことがあるであろう、試験直前の「一夜漬け」勉強です。

一夜漬けは目標の達成可否を最後の24時間の頑張りに託すという意味で、望ましい目標達成の手法とは言えないでしょう。

しかし、皆さんの中には、一夜漬けの方が効率的に勉強ができ、思ったより点数が取れたという経験を持たれている方もいらっしゃると思います。このような短期間の極度の集中状態を作り出すことは、実は目標達成に必要な技術の習熟度を高めたり、習慣化する上でとても効果的なのです。

 

一夜漬けとは、集中力が高まる「フロー状態」

自分が好きなことに取り組んでいるときは時間があっという間に過ぎるという経験を、皆さんも一度や二度は体験したことがあると思います。このように、何かに取り組んでいる際に完全にのめり込み、没頭している精神状態はフロー状態と呼ばれています。

フロー状態に入ると、人は高いレベルの集中力を示し、楽しさ、満足感、状況のコントロール感、自尊感情の高まりなどを経験すると言われています。その結果、その人の持つ最大限の力を発揮し、普段よりも高いパフォーマンスを上げることができるようになります。

またフロー状態を繰り返し経験することにより、人はその活動を遂行するためのより複雑な能力を身につけていくと言われています。

フロー状態に入るためには、目の前にある目標に自分の全神経を集中させることが大事になります。その他一切のことには惑わされず、実行の仕組みを構築し、雑念を捨て、ただひたすらやるべき目標に心を向けていると、普段とは異なる集中力で物事に取り組むことができるようになるのです。

一夜漬けで試験勉強に没頭しているときも、私たちはある種のフロー状態に入っています。フロー状態に入って学習したことで、短い時間でも及第点を取れるだけの知識を得られているのです。目標達成においてこうしたフロー状態を作り出すことに成功すれば、より効率的・効果的に目標達成を実現することができるようになるのです。

 

できる人は初期段階で「フロー状態」に入っている

目標を効率的に達成するためには、一夜漬けによってもたらされるフロー状態をうまく利用することが、実は合理的な考え方であると言えます。

すなわち自分の行動のムラのパターンを理解し、適切なタイミングで集中期間を設けられるようにコントロールすることができれば、目標を達成するための時間の過ごし方をより戦略的にデザインすることが可能になるのです。

このようにフロー状態をいつ、どのようにして発現させ、維持していくかということが目標達成における重要な鍵となってくるわけですが、これについては興味深い研究が1つあります。

アメリカの心理学者であるミハイ・チクセントミハイは、フロー状態は取り組む課題が次の3つの条件すべて、あるいはいずれかの組み合わせを満たすときに促されるとしています。

1つ目は達成したい目標が存在すること、2つ目は目標達成のための課題の適度な困難度、すなわち難しすぎず易しすぎないこと、そして3つ目が目標の達成度についての適切なフィードバックが得られることだと述べています。

この3つの条件について指摘しておきたいのは、フロー状態を目指す上で、時間の切迫性は要件とされていない、ということです。私たちは、極限の集中状態を実現するためには、試験の前日であったり、締切ギリギリでないとダメだと思いがちですが、実際にはフロー状態は時間の縛りがなくても作り出すことが可能なのです。

こうした考えを突き詰めていったとき、100日で目標を達成するためには、「一夜漬け」のタイミングをスケジュールのかなり早い段階に持ってくることで、目標達成に必要となる習熟・習慣化をできる限り短期間で実現するというアイデアが生まれてきます。

人の持つ気分のムラに合わせて、100日を戦略的にスケジュールすることで、期間内の習熟効果を最大限にするということが、私が提案する100日デザインの基本戦略になります。100日という限られた時間だからこそ、1日1日を戦略的に過ごすことがとても大事になってくるのです。

【著者紹介】長田英知(ながた・ひでとも)

東京大学法学部卒業。地方議員を経て、IBMビジネスコンサルティングサービス、PwC等で政府・自治体向けコンサルティングに従事。2016年、Airbnb Japanに入社。日本におけるホームシェア事業の立上げを担う。2022年4月、良品計画に入社。同年9月よりソーシャルグッド事業部担当執行役員に就任。社外役職として、グッドデザイン賞審査委員(2018~2021)、京都芸術大学客員教授(2019~)等。著書に『たいていのことは100日あれば、うまくいく』(PHP研究所)、『ワ―ケーションの教科書 創造性と生産性を最大化する「新しい働き方」』(KADOKAWA)などがある。

 

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