なぜ財務省は巨大な力を持ってしまうのか? 名著が明らかにした「お金の支配力」
2020年09月15日 公開 2022年01月13日 更新
金融により増殖する貨幣
銀行はなぜそんな巨大な力を持つに至ったのでしょうか。そのカギは銀行が持つ貨幣を増殖させる機能にあります。例えばある会社が1億円預金しているとします。その会社はすぐにそのお金を引き出さないと予想して、銀行がその1億円をほかの会社に貸したとしましょう。
すると、1億円が預金者のものでもありながら、貸した先の会社の手元にも1億円があることになります。これは実質的に貨幣が増殖していることを意味します。
銀行の力は強大です。企業に成長を宿命づける金利をつかさどり、貨幣も増殖させ、資金を注入することで企業を苛烈な総力戦に追い込んでいます。一方で、マクロの視点から見れば、国家の経済の成長を促進する核心的な機能を担っているとも言えます。
会社では財務部長やCFO、企業では銀行や証券会社、国家では財務省や金融庁が一機能という以上の影響力を持っているのは、このような背景によるのです。
会社にいると、ほとんどすべての意思決定にはお金が関わります。私も日々、様々な意思決定を行っています。そのほぼ100%がお金も関わることです。ロマンのない話ではありますが、何かに情熱を傾けたいと思ったとき、もう一人の自分は好むと好まざるとにかかわらず、冷静にそろばん勘定をはじめなければならないのです。
あらゆる企業は、金利以上の速度に設定されたランニングマシンの上を走っています。成長を義務付けられた上に、立ち止まることは許されません。金融の仕組みは私たちに力を与える代わりに「安心」を奪ってしまったとも言えるでしょう。
民主制が縮退すると君主制に回帰する!?
本書では「縮退」という量子力学の知性が宿る言葉が使われています。これは本書がエンディングを迎えるための一つのキーワードとなっています。
著者はこの縮退をダムが水を高い所から低い所に放出する現象に例えています。水がその高低差を下りるときにエネルギーを生み出すように、縮退時にはエネルギーが放出されます。政治体制も同様に、設立当初の高潔さはしだいに縮退により失われ、堕落していく過程で大きな富が生み出されているというのです。
著者は政体を良い政体と、縮退が進んだ悪い政体に分けています。人類の歴史を振り返ると、創設者の長期的願望に基づく高貴な志は良い政体を生みますが、次第に短期的願望が支配をして、悪い政体になっていきます。その比較を良い政体→悪い政体の形で紹介します。
・君主制→独裁制
・貴族制→寡頭制
・民主制→衆愚制
そしてこれらの制度には「政体循環論」と呼ばれる思想から、サイクルがあると言われています。
君主制→独裁制→貴族制→寡頭制→民主制→衆愚制(→君主制(以下繰り返し))
今の世界では多くの国で、民主制だったものが短期的利益への誘惑に耐えられず衆愚制になろうとしているように見えます。そして、徐々に進む衆愚制が引き起こす分断に嫌気がさした世界は、君主制の到来を望んでいくことになるかもしれません。
さて、我々はこれからどのような未来を選ぶのでしょうか。政体循環論に従い、絶対的な君主を求めていくのでしょうか。