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超過密な東京はもう限界…「2つの街に住む」という若者たちのニューノーマル

玉木雄一郎(衆議院議員),河合雅司(人口減少対策総合研究所 理事長)

2020年10月22日 公開

超過密な東京はもう限界…「2つの街に住む」という若者たちのニューノーマル

コロナ禍の影響で、東京都は転出が転入を上回る「転出超過」となった。本格的な一極集中の是正の動きとなるかは現時点では分からないが、転機を感じさせる動きだ。人口減少社会における「暮らしの豊かさ」とは何か。

国民民主党の玉木雄一郎代表と、このたび新著『未来を見る力』(PHP新書)を出版した人口減少対策総合研究所の河合雅司理事長が東京と地方の在りようを展望した。

 

人が暮らすには巨大すぎる東京

河合雅司

 

【河合】 人口減少時代にあっては、過疎が進む地方だけでなく、高齢化が進む東京の機能不全も危惧されます。東京はあまりにも人口を集め過ぎました。一極集中の是正は必要です。

東京といえば、最近、大きな変化がありました。コロナ禍の影響で5月の東京都の人口は、ついに転出が転入を上回る「転出超過」となったのです。7月も8月も転出超過です。

実は4月の東京都の人口は予想よりも早く1400万人を突破しました。政府は東京都の人口が2030年頃までに減少に転じると推計しているのですが、1400万人になった翌月に「転出超過」というのは、明治維新以来、膨張を続けてきた東京都の転機かもしれません。これを機に、人口減少社会に即した国土形成を考える必要があります。

【玉木】 おっしゃるとおりで、もともと隠れていた首都一極集中の弊害が、コロナ禍によって顕在化しましたね。東京都の1400万人という人口は限界値で、少しずつ機能を分散していく必要があります。

【河合】 コロナ禍でオンラインを活用した在宅勤務が増えましたが、多くのビジネスパーソンが気軽に使える技術が台頭してきたタイミングにあったということです。大都市に住まなくとも仕事はできるという状況は、コロナ禍がなくとも早晩到来していたと思います。

【玉木】 少子化への対応を考えるうえで、可処分所得と併せて大事なのが「可処分時間」を増やすことです。通勤が典型的で、「テレワークで移動の制約がないと、こんなに楽になるのか」と多くの人が実感したのではないでしょうか。

【河合】 少子化は国のかたちをも変えますが、東京都の2019年の合計特殊出生率は1.15で、全国最低です。理由の一つが、まさに玉木さんがおっしゃった「可処分時間」の少なさが要因です。通勤時間が長く、早朝に家を出ないと始業に間に合わない。

毎日、残業続きで深夜に帰宅してすぐに寝てしまう。これでは子どもができるわけがありません。東京圏の人口は3600万人を超えています。人類史上、3000万人以上が一つの生活圏を形成したことはないんじゃないですか。東京圏は、人間の営みにとってはあまりにも巨大で複雑すぎるということです。暮らしの中で受けるストレスも大きいです。

いまの東京圏は、明治時代の富国強兵からつながる効率性の追求が至った究極の姿といえるでしょう。国会、許認可権を持つ省庁、決定権を持つ本社、そして労働力を東京圏に一極集中させたのは、たしかに効率的でした。しかしそれと引き換えに、われわれは人間らしい営みを犠牲にしました。

出生率の低さや感染症への脆弱さが突き付けているのは、「東京一極集中は、本当に人々に幸せな暮らしをもたらしたのか」という根本的な問いです。

 

本当の幸せは「循環型社会」にあり

【玉木】 私の生まれは香川県の田舎で、自助でモノを大切にし、共助で支え合う「循環型社会」は馴染み深い。祖父は、まさに「何でも自分でつくる人」でした。

家の修繕や生活用品を賄うため、履く物も自分で稲わらを編んでわらじをつくっていたほどです。お風呂も、母が裏山で伐ってきた薪で沸かしていたので燃料代はタダ(笑)。

ところが小学校のとき、祖父の退職金で家を建て替え、セントラルヒーティング完備の家になりました。たしかに便利になったけれど、油代がかかるようになりました。なおかつ、その油代は最終的には中東の懐に入るわけです。

国民にとってどちらが幸せなのか、悩んでしまう。便利さを8掛けくらいに抑えても、循環型の道を選んだほうが、河合先生がおっしゃった「いかに戦略的に縮んでいくか」に適い、トータルな人間の生き方として幸せなのではないでしょうか。

コロナショック以降、私も幸福な生き方についてますます考えるようになりました。いままでは国会議員として、土日も休みが全くない生活で、地元に帰って政治活動を行なってきました。

しかし県をまたぐ移動の自粛要請を機に、15年ぶりに週末を家族と一緒に過ごすようになった。コロナ離婚などという言葉もありますが、私は幸運なことに「コロナ復縁」といえる(笑)。

【河合】 自助や共助のお話は、私も同感です。2019年に、金融庁がまとめた「老後の資産は2000万円必要だ」という報告書が波紋を広げました。では、1億円貯めたならば本当に老後の安心が手に入るのかといえば、そうではないと思います。

なぜならば人口減少によって、今後はあらゆる業種で人手不足が起こるからです。将来、いくらお金を出しても、それに見合ったサービスが受けられない時代が来るかもしれない。

その前兆が、「引っ越し難民」です。過度のドライバー不足により、予定どおり引っ越しができない人が増えています。もはや「お金さえあれば何とかなる」という思考自体を捨てなければなりません。多くの富を抱えていることが「真の豊かさ」を意味するのか、分からないということです。

老後の安心を手に入れようと思うならば、まずは「自助」として若い頃から経験を積み、なるべく自分でできることを増やしておくことです。仮に年金受給額や資産が少なくても自分で出来ることか多ければ、その分、余計な家計支出を減らせます。これからは若い世代が減るので、高齢者同士が助け合う「共助」の仕組みも必要です。

【玉木】 経済学者の宇沢弘文先生は、「共通社会資本」という概念を提唱されていますね。市場社会の基盤となる自然環境、法の秩序など「目に見えない資本」の部分を指す言葉です。

共通社会資本の土台が揺らいでしまうと、その上に立つ市場社会も揺らぐ点について、近代の市場原理主義は軽視してきました。日本はかつての反省に立ち、共通社会資本のベースを厚くする必要があります。そのためには、農村社会や地域のコミュニティを取り戻すことも重要です。農村社会の出生率が高いことからも、同様のことがいえます。

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