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地方創生は「既存インフラ」の活用にかかっている

石原伸晃(衆議院議員),河合雅司 (人口減少対策総合研究所 理事長)

2020年10月09日 公開 2020年10月09日 更新

地方創生は「既存インフラ」の活用にかかっている

コロナ禍によってテレワークが普及したこともあり、ニューノーマル時代の国土形成や住まい方に多くの人が関心を寄せている。人口激減期と重なる「コロナ後」の街づくりはどうあるべきなのか。かねてより国土政策に取り組んできた自民党の石原伸晃元国土交通大臣と、人口問題の第一人者で、このほど『未来を見る力』(PHP新書)を上梓した人口減少対策総合研究所の河合雅司理事長が語り合った。

 

地元の組合長との一杯で、洋上風力発電が実現する

(石原)いまや自民党で、国土交通大臣の経験者は、私一人になってしまいましたから、自分がしっかり街づくりを進めなければならないという思いを持っています。

たとえば地方の「病院難民」「買い物難民」といった問題は、テクノロジーの力で十分解決できると考えています。国土交通省の管轄する道路で、無人の自動運転システムをつくり、移動が困難な方々に利用していただくのです。

同様に、今年からやっと予算化されたスマートシティ構想の中でも、ボタンを押せば救急車が来る、バスがいまどこを走っているのかが瞬時に分かる、電力が非常に節約できるといった新技術が想定されており、これらが実現すれば高齢者にとって大変住みやすい街になる。

それらをパッケージにして実際に体験できる街を五つくらいつくろう、協力してくれそうな首長を紹介するから――と常々言っています。

さらに、私は平成10年くらいから継続して、環境に配慮した地域づくりにも取り組んでいます。例えば、五島列島に野口市太郎さんという素晴らしい市長の方がいらっしゃるのですが、野口市長と協力して、同市に洋上風力発電のシステムをつくりました。

環境省のモデル事業だったのですが、すんなりとはいきませんでした。漁業権をはじめとして、地元の方との良好な関係をつくり維持していくことが何よりも重要でした。そんな時政治家ができることは、地道な話し合いだけです。

私は役人10人と一緒に現地に訪れました。五島市には漁業の組合が三つあったのですが、組合長たちと酒を飲んで、口説きに口説きました。向こうはお酒が強いですから、こちらも手勢は多いほうがいいと思い、10人で乗り組んだわけです。みんなで飲んでると、そのうち役人が3人くらい倒れ始める(笑)。

ただ話すだけではなく、彼らの要望にも応えました。実証の済んだ洋上の風力発電機のおもりを活用し、漁礁をつくって漁師さんたちが希望された場所に設置しました。するとその漁礁に魚が寄ってくる。さらには風力発電機そのものにも魚が寄ってくるようになりました。

さらに燃料電池で動く漁船をつくって寄贈しました。電動の難しさは、洋上に出た時、電力ダウンに陥ると、バックアップの動力源がなければにっちもさっちもいかなくなることです。しかし、近場であれば問題ない。地元に対してそのようなサポートを行ったことで、洋上風力発電が地元の方に受け入れてもらっているんです。

野口市長は五島市を環境のまちにしたいとおっしゃっています。三菱自動車の電気自動車であるアイ・ミーブを使ったりしているんですよ。

(河合)五島列島の洋上風力発電は大きな話題を呼びましたね。陰でそんなご苦労があったのですか。

(石原)エネルギー問題でもう一つ紹介させていただくと、森林のまちである飛騨高山でも、化石燃料に頼らないまちづくりが進められています。市長は国島芳明さんという方で、この方も大変魅力的な方です。

森林のまちですから、木材やチップにはかなり恵まれており、それらを利用すればバイオマス発電で市のエネルギーを賄うことができる。しかし安定エネルギーにするためには、それらを燃やし続けなければならない。

そのシステムをつくるための支援策について、助言をさせていただきました。

このように、気のきいた町では、化石燃料に頼らないまちづくりができています。もちろんこの二つの町だけでありません。他の例を挙げますと、各地で行われている小水力発電も、小規模な電力を生み出すことができます。無人でできるので、雇用は生みませんが……。

石油を使わないエネルギーシステムができあがると、あちこちから視察に来るので、地元の方の誇りになるんですね。

 

トラック自動運転システムの可能性

(河合)地球環境に根差した街づくりというのは、世界の潮流になります。私も極めて重要な視点だと思っております。ところで、話題を先ほど例として挙げられた自動運転に戻しますが、一度に切り替えるわけにはいきませんよね。どうしても過渡期には、過渡期特有の問題が生じます。

たとえば、自動運転の車と、人がハンドルを握って走る車が混在している時、逆走などAIが予期せぬ運転をする人がいれば、かなり危険なのでないでしょうか。区切られた空間で自動運転の車しか走ってはいけないということにすればいいのでしょうが、公道を自動運転の車が走るのはまだまだ先のことでしょう。

さらに懸念があります。トラックが荷物を配送する時、荷物の積み下ろしをどうするのかという問題です。洗濯機などは取り付けまで望む人も多いです。では、自動運転のトラックが洗濯機の取り付けまで可能なのか、古くなった洗濯機を持ち帰ってくれるのかといえば無理なわけです。

自動運転は、部分的なツールとしては機能すると思いますが、こうしたことまでAIで解決しようとなればまだかなり時間を要するでしょう。「夢のテクノロジーで、人口減少による人手不足が解決する」と思っている人は少なくないですが、過渡期の問題を視野に入れていない人が少なくありません。

(石原)私も、すべてを完備したスーパーシティがいますぐできるとは思っていません。できることから始めればいいと思っています。

自動運転にしても、昨年の6月から今年の2月にかけてコンボイ(トラックの隊列走行)の自動運転の実証実験が行なわれましたが、どこでも走れるコンボイより先にまず第二東名高速道路の第3レーンを自動化して、コンボイを走らせることを検討すればいいと考えています。第二東名は構造上は時速140kmで走れるくらい余裕を持って造られていますから。

ただ、警察サイドは安全性を懸念しており、「トラックを5台連ねて走るのはやめてほしい」という要請がありました。確かに、5台だとコンボイの全長は150メートルくらいになってしまいます。

業界のほうは、5台にしないと費用対効果が合わないと主張しているのですが、とりあえずは3台で始めることになりそうです。

このシステムの技術的な課題は、高速道路から降りるのが難しいことです。現在の技術だと、1台なら降りられますが、コンボイでは降りられない。これを克服するために、車体ではなく道路に投資して、磁気マーカーを用いて降りられるようにする、といったアイデアが出ています。

また、高齢者の買い物難民や病院難民の方々が利用する小型モビリティは、それほど高速運転を行う必要はありません。緊急の際には救急車を呼べばいいわけですから。たとえていうなら、スイス・マッターホルン山麓の「ツェルマットの馬車」レベルのものでいいのです。

いずれにせよ、一足飛びに完璧なシステムを求めるのではなく、少しずつ実証実験を繰り返していけばいいのです。その予算化はできています。そうしたことの積み重ねから、未来が見えてくるのではないかと思います。

(河合)私は、テクノロジーは当然利用するべきですが、技術の進化については少し違う視点で見ています。既存インフラをもっと使いこなしていくことに注力すべきだと思うのです。

たとえば、高速道路で自動運転ができるところまできているのであれば、サービスエリアを「拠点」として、サービスエリアの周辺に人が住める場所をつくってしまえばいいのではないかということです。

こんなに便利な場所はありませんから。荷物をサービスエリアに降ろしていけば、そこから隣接地にある個人宅への配送を非常に効率的に行うことができます。

インターチェンジを降りる技術を確立させるよりも、コンボイはインターチェンジで完結させて、個人宅の方をインターチェンジに近づける方が実現は早いのではないでしょうか。

(石原)住民を集住させる、ということですね。

(河合)そうです。そこまで引っ越してもらわなければならないという別の問題が出てきますが、新規テクノロジーの開発の難しさを考えると、そちらのほうが、リアリティーがあるのではないかということです。何しろ、少子高齢化問題は喫緊の問題であり、テクノロジーの開発を待っている余裕がないのです。

私がこの案を提案する理由はもう一つあって、地方では人口減少でサービスエリアで働く販売員やレストランの調理人などを集めることが難しくなってきているそうです。サービスエリアの周りに集まり住めば、働き手不足は解決しますし、サービスエリアの店舗ににぎわいも生まれます。

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地方の集住をいかに促すか

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