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生き方

秋葉原の心療内科医が見た「キラキラしている人が抱える“生きづらさ”」

鈴木裕介(内科医/心療内科医/産業医)

2020年11月06日 公開 2024年12月16日 更新

秋葉原の心療内科医が見た「キラキラしている人が抱える“生きづらさ”」

傍から見れば華々しいキャリアを歩んでいる人でも、内面には鬱屈した感情や「生きづらさ」を抱えながら、ギリギリの状態で生きている人が多いのではないだろうか。内科医、心療内科医という立場で多くのビジネスパーソンの診療をする鈴木裕介氏は、ビジネスパーソンが抱える心の内面の問題に深い課題意識を持っているという。

鈴木裕介著『NOを言える人になる』(アスコム刊)では、内面にあるネガティブな感情を理解して、嫌なことには我慢せずにNOと言うことの重要性を訴えている。本稿では鈴木裕介氏と、フライヤーCOOの荒木博行氏との「生きづらさへの処方箋」をテーマにした対談の様子を紹介する。

記事提供:本の要約サイト「flier」

 

不幸が加速していく仕組み

【荒木】まずは鈴木さんのキャリアを教えてください。

【鈴木】現在は、秋葉原saveクリニックという内科、心療内科のクリニックを開業して院長をしています。メンタルヘルスに興味を持つようになったきっかけは、研修医時代に近親者を自死で亡くしたことでした。

当時は放射線科医だったのですが、内科への転向を経て医療機関向けのコンサルティングに転職し、そして自分で開業するというキャリアになります。医者としてはかなり不思議なキャリアなんですが、嫌なことにNOを言い続けた結果でもあるんです。

現在は、ビジネスパーソンに向けた診療をしており、秋葉原という土地柄、コンテンツ業界の方やアーティストの方も多くお越しになります。

【荒木】具体的に現場ではどういった悩みを持つ方が来られることが多いのでしょうか。

いろいろな方がいますが、とても優秀なのに自己肯定感が低い方が多いという印象です。一見するとキラキラしているのだけど、実は周囲からは見えない生きづらさのようなものを背負っているんですよね。

【荒木】著書でも「DWD(だから私はダメなんだ)病」についてふれられていましたね。

【鈴木】そうなんです。これは、自分で上げた成果を自分で認められない人のことをそう呼んでいます。目標とする会社や学校に入れても、もしくは目標を達成したとしても「私がこんなところにいるのは場違いだ」というようなネガティブな解釈をしてしまう。

その思考パターンから抜け出さない限りは、どれだけ努力を重ねても自分らしい生き方ができないんです。そういう人は傾向として、周囲の人たちの期待や他人が「こうすべき」と決めたルールを背負い込んで、他者のニーズを満たすことを優先してしまって、自分を満たすことがおざなりになっている。

でも、他人のニーズを完璧に満たしつづけることはできないので、どこかで破綻してしまうんですよね。だから、いつまで経っても自分を認められないまま。キャリアの階段をのぼればのぼるほど、競争が激しくなり、他者からの期待値も高まっていく。だから、一つ間違うと誰でもこのループに入ってしまう危険性があります。

 

評価軸が少ない生き方は、未熟で脆弱

【荒木】なるほど。それは競争社会の弊害ともいえますね。社会が作った単一ルールの中で、いかに上に上がっていくかという戦いは、小学生の頃から植え付けられてきた競争原理でもあります。そして、そうしたいわゆる「偏差値社会」の延長にビジネスを位置付けてしまうわけです。

つまり、どんな会社に入るか、どんな部署に配属になるか、その部署でどれだけ良い成績を残すか……。現在は、こうした他者が作ったルールの下で必死に生きるための維持コストに対し、リターンが見合わなくなっているように感じます。

【鈴木】まさにそうですね。もちろん、所属するコミュニティの中で上に行けば行くほど安心を感じるというのは、自然な感情でしょう。ただ、何を良しとするのかという評価軸が1本とか2本しかないというのは、リスクを抱えた脆弱な生き方だと言えます。

物量とか体力とか能力とか容姿とか、競争力の源泉になるものは全て、いずれは衰えていきます。そのような他人と交換可能な評価軸の下で勝ってきたことだけがアイデンティティになっている人にとっては、ある時期からはかなり生きづらくなってくるんだと思います。

【荒木】評価軸といえば、クレイトン・クリステンセンの名著『イノベーション・オブ・ライフ』が思い浮かびました。この本の原題は、『How will you measure your life?』(=あなたの人生の尺度は何ですか?)なのですが、まさに私たちは自分なりの人生の尺度を問うべきなんですね。

それを疑わずして、社会が決めた1つの尺度に沿って生きていることの儚さや危うさに気づくこと必要なのかもしれません。

【鈴木】そうですね。さらに加えると、1つの軸で生きていると、コミュニケーションも排他的になりかねないんです。その唯一の判断軸だけで他者とのコミュニケーションのあり方を決めてしまうわけですから。そういう未熟な人とのコミュニケーションは辛いですよね。

相手はどこかジャッジされているような気分になってしまう。たとえば、「あなたはお金を持っているから素敵ですよね」って言われたら、いくらそれが本当でも嫌じゃないですか。でも価値観の軸が単一の人は、平気でそうした態度を取ってしまう。

成熟した人間というのは「価値基準が多様である」と言い換えることができると思っています。だからこそ、いろんな種類の良さに気づくことができる。「マーケティングができる」などと、その人の「機能的」な良さに気づける一方で、機能には表れてこないような「情緒的」な良さにも気づくこともできる。

「この人、全くダメだけど面白いなぁ」などと、人間の「欠損」を愛する感情って誰しもあると思いますが、そういう歪な部分を受け入れ合えたり、楽しめたりできるようになるといいですよね。

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「ラインオーバー」には、NOと言う

著者紹介

フライヤー(flier)

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