1. PHPオンライン
  2. 社会
  3. コロナで「年金制度」がついに破綻?  政府の先送りが招いた“大きすぎる代償”

社会

コロナで「年金制度」がついに破綻?  政府の先送りが招いた“大きすぎる代償”

鈴木亘(学習院大学経済学部教授)

2020年12月04日 公開 2024年12月16日 更新

コロナで「年金制度」がついに破綻?  政府の先送りが招いた“大きすぎる代償”

一見、コロナショックとはあまり関係が無さそうな「年金制度」であるが、コロナショックの影響で労働者数と賃金の両方が減少すれば、年金の保険料収入はその相乗効果で減少する。

また、経済がデフレ基調に戻ってしまえば、「年金100年安心」プランで計画されていた給付カットは実現不可能となる。政府が掲げる「年金100年安心」プランは実現可能なのか。社会保障研究の第一人者が解説する。

※本稿は、鈴木亘著『社会保障と財政の危機』(PHP新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「年金100年安心」への異常な固執

コロナ禍が年金財政に与える影響について、政府の危機感はあまりにも薄いのが現状である。例えば、コロナ禍が深刻であった2020年5月、6月にも、政府の社会保障政策の司令塔である「全世代型社会保障検討会議」が3回開かれているが、年金財政に関する議論は一切なかった。

さらに、政府は新型コロナウイルスが広がる前に作られた年金改革法案を、驚くべきことに3月にそのまま国会に提出した。

国会でもコロナショックの影響についての議論はほぼ皆無であり、法案内容にほとんど修正が行われないまま、5月末にひっそりと通過している。

一連の動きをみると、どうやら政府は、コロナショックで年金財政がどうなるかという議論を行いたくないようである。

議論をしたり、財政のチェックを行わないということは、コロナ禍の中でも、依然として政府の唱える「年金100年安心」が保たれているということになる。100年安心の金看板をかけ替えずに済むのである。

そもそも「年金100年安心プラン」という言葉を、政府・与党が使い始めたのは、今は昔の2004年のことである。当時の首相は、「構造改革なくして経済成長なし」の小泉改革で知られる小泉純一郎氏である。

実は、年金についても、近年まれにみる大改革を行った。その目玉はズバリ、「年金額の大幅カット」である。高齢者の年金額を20年程度かけて約2割カットすることによって、現役層の保険料負担が重くなりすぎることを防ごうとした。

そして、当時少なくなっていた積立金を再び積み増して、概ね100年先まで今の年金制度が維持できるように、財政立て直しを行った。

具体的に、この2004年改革の柱は、
(1)将来にわたって保険料を引き上げ続けることを止める
(2)約20年間で、2割程度の年金カット
(3)基礎年金への税金投入の増額
(4)積立金の早期取り崩しの4項目である。

ちなみに、この4本柱を専門用語を使って説明すると、それぞれ、(1)保険料水準固定方式の導入、(2)マクロ経済スライドの導入、(3)基礎年金国庫負担割合の1/3から1/2への引き上げ、(4)無限均衡方から有限均衡方式への変更となる。

政府が上記2番目の「マクロ経済スライド」という年金カットに舵を切るという決断を行った背景には、年金を巡る世代間不公平の是正が必要という判断もあった。

すなわち、現役層や将来世代の保険料負担を軽減し、その分、現在の高齢者にも年金カットという形で負担を求めなければ、年金を巡る世代間不公平が大きくなりすぎ、若者や将来世代が年金制度を支持しなくなるという危機感があったのである。

この問題意識の正しさや、政治的に大きな抵抗が予想される年金カットという決断を下したこと自体は、今でも高く評価できる。

 

諸悪の根源は「デフレ下の年金カット停止」

だが、高齢者が大きな年金カットをそのまま受け入れるはずがないし、高齢の有権者を怒らせることは政治的に大変怖い。

そこで、高齢者たちをなるべく刺激しないように(できれば何も気づかれないように)、様々な工夫を行った。実はその工夫の数々に、後々、足をすくわれることになるのである。

まず、この年金カットは非常に長い時間をかけて少しずつ行うこととされた。時間をかければ、1年あたりのカット幅を少なくすることができる。当初の計画では、2004年から2023年までの約20年間をかけ、1年ごとに約1%ずつカットすることになっていた。

ここで重要なことは、2004年時点で既に高齢者だった人は2割もカットされないということである。例えば寿命があと20年であれば、はじめの年の年金カットはわずか1%で、だんだんとカット幅が大きくなって、亡くなる直前にやっと2割カットとなる。

つまり、平均的には半分の1割カットで済む。カット幅が最大となるのは、実は2023年以降の高齢者、つまり2004年時点で45歳以下の人々である。この人たちは年金受給開始から亡くなるまでずっと2割カットである。

要するに、この年金カットの主な対象者は、またしても現役層や子ども、将来世代であり、保険料引き上げほどではないが、やはり彼らへの負担先送りという側面があることに変わりはない。

さらに、後々大問題となるのは、物価上昇率がマイナスとなるデフレの年には、年金カットを行わないという条件を、マクロ経済スライドに付けてしまったことである。

これは、高齢者たちに年金カットの事実を気づかれないための、姑息な知恵であると考えられる。例えば、物価上昇率が0%の時に1%の年金カットをしたらどうなるか。翌年の年金額は99万円になってしまう。

100万円の年金が99万円になれば、高齢者たちは、年金がカットされた事実に気づき、激怒するだろう。

それを防ぐために、デフレの年には年金カットは行わない制度(物価上昇率の小さいディスインフレの年にはカット幅を小さくする制度)にしたのである。正確に言えば、名目の年金額が前年を下回らないという制約をかけたのである。

関連記事

アクセスランキングRanking

前のスライド 次のスライド
×