何もしていないのと同じ状態? 日本企業の「SDGs」が世界的に遅れている理由
2021年02月24日 公開 2022年12月19日 更新
ユヌス先生が練り上げた「七つの原則」
それでは、ユヌス先生が考えに考えて定義したソーシャルビジネスの「七つの原則」について見ていきましょう。
(1)ソーシャルビジネスの目的は、利益の最大化ではなく、貧困、教育、環境等の社会問題を解決すること。
(2)経済的な持続可能性を実現すること。
(3)投資家は投資額までは回収し、それを上回る配当は受けないこと。
(4)投資の元本回収以降に生じた利益は、社員の福利厚生の充実やさらなるソーシャルビジネス、自社に再投資されること。
(5)ジェンダーと環境に配慮すること。
(6)雇用する社員にとってよい労働環境を保つこと。
(7)楽しみながら。
本当によく考えられたソーシャルビジネスの原則で、どれも平易な表現で過不足なく大切なことが書かれています。あえて私なりの解釈をすると、これまでのビジネスでは越えられなかった壁を乗り越えて目標にたどり着くための大事な特徴が二つあります。
一つ目が、1番の「ソーシャルビジネスの目的は、利益の最大化ではなく、貧困、教育、環境等の社会問題を解決すること」と、まずソーシャルビジネスの目的を明確に示している点です。
二つ目が、3番の「投資家は投資額までは回収し、それを上回る配当は受けないこと」です。ソーシャルビジネスにおいても、株式会社の資本金に当たる活動資金が最初に必要になります。
株式会社は、株主に価値を還元するため、一般には配当を出すことが求められます。これに対し、NPO・NGOの運営資金は、先ほど述べたように、寄付金や補助金です。
そのため、資金の出し手にお金は戻ってきません。資金の出し手に何らかの配当を出してしまうと、そのNPO・NGOは活動できなくなります。
NPO・NGOと株式会社、この二つの形態のハイブリッドであるソーシャルビジネスでは、投資家は投資額までは回収できますが、投資額を上回る配当は受けられません。
ただ、それだけでは単なる慈善事業になってしまうため、次のような方法は認められています。
まず、適切な配当(リターン)をあらかじめ決めます。たとえば、配当を1000万円と決めて1億円を投資した場合、それがいつになるかはわかりませんが、ソーシャルビジネスが軌道に乗り、成功した暁には、1億1000万円を戻してもらうことができるのです。
ただし、どんなにそのソーシャルビジネスが成功しても、投資家はあらかじめ決めた配当以上は一銭ももらうことはできません。
ソーシャルビジネスのもう一つの配当
このようなソーシャルビジネスですが、じつはお金以上に貴重な、価値ある配当を受け取ることができます。
それは、ソーシャルビジネスによって社会問題が解決されたときに生まれる「喜びや幸せの声」であり、関係者である多くの人たちの「笑顔」です。これらが、ソーシャルビジネスの配当なのです。
この「喜びや幸せの声」「笑顔」という配当は、そう簡単には受け取れません。しかし、一度受け取ったら、もう二度と他のことに投資したいと思わなくなります。なぜなら、「喜びや幸せの声」「笑顔」というのは、心が震えるような身体性をともなった配当だからです。
ユーグレナ社は、ユヌス先生率いるグラミングループと共同で設立したグラミンユーグレナに1億円を投資しています。グラミンユーグレナは、主にバングラデシュでのソーシャルビジネスのための合弁企業ですが、1億円という金額は、私たちにとって大きな金額です。
それでもグラミンユーグレナを運営するための仕事が生まれ、その職に就く人たちも喜んでくれます。
だから、1億円を投資するだけの価値が十二分にあると私たちは考えています。現地を訪れて、実際に「ありがとう」という感謝の言葉をもらったときの、喜び、充実感、感動といったら、とても言葉では表せません。