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何もしていないのと同じ状態? 日本企業の「SDGs」が世界的に遅れている理由

出雲充(株式会社ユーグレナ社長)

2021年02月24日 公開 2022年12月19日 更新

SDGs

“儲ける価値観”で発想する日本のSDGs

また、SDGsへの取り組み自体にも、日本には問題があります。

たとえば、「バングラデシュの人たちには、ビタミンCが足りない、カルシウムが足りない、鉄分が足りないから」と、それら全部のサプリメントを日本から持って行って、現地の人たちに配ったとしましょう。

そして、「いくらの費用をかけて、何人に提供できたか、その効果がどれだけあったか、どれだけのインパクトを与えられたか」という数値を精緻に出し、資金の出し手に応えようとします。

これは、「いくら儲かるんですか」が、「どのくらいインパクトがあるんですか」に置き換わっているだけに過ぎません。それでは価値がないと、私は考えています。

ここで問題なのは、資金の出し手にとっては、どれだけインパクトを与えられたかが大事なことであり、バングラデシュの人たちの食生活の実質的な向上が主目的ではないということです。

SDGsというのは、本来的には逆のスタンスで臨むべきものです。数字から始めるのではなく、社会問題を見つける、認識することから始めるのがSDGsです。

SDGsの17ある開発目標に対して、「これを自分たちは解決したい」という熱い想いからスタートすることが大切なのではないでしょうか。

しかし、儲けを最優先する価値観が個人や企業に根強くあるため、SDGsやサステナビリティへの取り組みであっても、数字が先行し、インパクトを求めてしまっています。

誤解を恐れずに言えば、儲けを最優先する価値観にどっぷり浸かり続けているために、すべてのことを、それで判断してしまっている人や企業が多いのです。

もちろん、儲けることが悪いわけではありません。ビジネスにおいて利益をあげることは、事業を継続するためにも、拡大するためにも大変重要なことです。

ただ、利益をあげることが企業の目的ではありません。目的は企業によって違いますが、それぞれの企業が掲げる「事業を通して実現したいこと」が本来の目的のはずです。

 

ソーシャルビジネスとNPO、NGOの違い

私は、2005年にユーグレナ社を創業しました。その動機となったのが、1998年の夏、18歳のときに本物の「ソーシャルビジネス」と出会ったことです。場所は、南アジアのバングラデシュ人民共和国。

そして、このとき、グラミン銀行の創始者であり、ソーシャルビジネスの生みの親でもあるムハマド・ユヌス先生と出会えたことが創業への大きなモチベーションになりました。

当時、ユヌス先生は、これまでのビジネスとはまったく違うソーシャルビジネスをすでにグラミン銀行で行っていました。

ソーシャルビジネスがどういうものかは、ユヌス先生が定義した「七つの原則」を読むのが一番ですが、それを紹介する前に、まずは私なりの見方を簡単に述べたいと思います。

ソーシャルビジネスとは、NPOやNGOと株式会社の「いいとこ取り」をしたビジネスのこと、と考えています。

NPOは、Non-profit Organizationの略称で、非営利団体のことです。NGOは、Non-governmental Organizationの略称で、非政府組織のことです。

どちらも、運営資金は、会費や寄付金、国からの補助金・助成金などであり、事業収入もありますが、資金提供者に配当を出すことは禁じられています。

一方、株式会社は事業を行い、その事業収入から必要経費を差し引いて利益を出し、資金提供者である株主に利益の一部を配当や株主優待として配布します。

この、真逆とも言えるNPO・NGOと株式会社の「いいとこ取り」をしたハイブリッド形態がソーシャルビジネスなのです。

ソーシャルビジネスは、その生みの親であるユヌス先生が、およそ40年間にわたって、日々、「これは既存のビジネスと何が違うのか」「ビジネスの限界を解決するために何をしなければならないのか」「NPO・NGOがなぜその答えではないのか」などと自問自答して出した答えです。

ユヌス先生は、バングラデシュにおいて、まずグラミン銀行をつくり、「マイクロファイナンス」と呼ばれるソーシャルビジネスを始めました。

このグラミン銀行のソーシャルビジネスが世界から注目され、2006年、ユヌス先生がノーベル平和賞を受賞したことは、みなさんご存じの通りです。

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ユヌス先生が練り上げた「七つの原則」

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