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社会

インド出身の女性が国際結婚して痛感した「日本とイスラム社会の違い」

塩谷サルフィマクスーダ

2021年05月18日 公開 2022年10月06日 更新

イスラム社会

イスラムの中の男女平等

『女性が自由であるためには、競争するのではなく、あくまでも自分の能力の範囲で、自由でなければならない。また、女性は社会の事柄にもっと興味を持ち、生き生きとして、活動的でなければならない。それは女性だからではなく、人類の半分を占めているからである』(インド初の女性首相インディラ・ガンジーの言葉)

インド・カシミールのイスラム教の家で生まれた私は、自分がイスラム教徒であることをとても誇りに思っています。幼い頃から両親、特に父親から大事に育てられ、女性として生まれて不安など感じたこともありません。

その上、カシミールの伝統文化においては、妻は"アダルニ(身体の半分)"と呼ばれます。その半分が麻痺していると、誰も動くことはできません。女性は女神の地位に引き上げられ、社会から最高の尊敬を受けています。

カシミールの山や川、湖、広大な畑など、これらのほとんどが女性に割り当てられました。またカシミールの女性は昔から、男性と一緒に働き、子供の頃から学校に行かなくても、経済的に自立をしていたのです。

家の中でカシミールショールや手工芸品、木彫りの彫刻品、漆工芸など、男女が一緒になって家内工業をして働いていました。ですので、男女の経済格差も感じませんでした。

イスラム社会では、パラダイスは母の足もとにあるといわれています。これは神の法則であり、この言葉は宗教的な責務を担っています。女性を尊敬し、母を敬い、娘と息子を平等に扱う。イスラム教においては、女性に教育を受ける権利がないということはありません。男女平等に教育が受けられます。

また、娘を3人持てば天国に行けるといいます。結婚に関していえば、イスラムの法律では、男も女もパートナーを選ぶ権利があり、強制ではありません。

例えば、預言者(イスラム教の開祖ムハンマド〈PBUH〉)の娘、ファーティマと結婚したいとアリ(ムハンマド〈PBUH〉の養子でお婿)が望んだ時、預言者はファーティマに尋ねるまでアリに返事をしませんでした。イスラム法律では、明確な原因があれば離婚も可能です。

こうした教えにもとづいた家庭の愛情で育てられた私は、男女平等など、当たり前のことだと思っていました。

『世界の平和を望むのであれば、家に帰って家族を愛して下さい(If you want peace in the world, go home and love your family.)』

という、マザー・テレサの言葉がありますが、私の家族はまさにこの言葉通りだったのです。親に愛され、自由に発言ができて、自分の行動に責任を持つことは、私にとってはごくふつうのことでした。

父が母をとても大事にしていましたので、結婚とはとても美しく、夫婦間の愛情、絆、信頼関係で家族の団結や家族愛が生まれてくるのだという、その考え方を私は日本社会にそのまま持ってきたのでした。

 

一番最初の学校は「母親の膝もと」

男女平等も社会の常識だと思い込んでいたのは、世間知らずであったと思います。愛のある家庭に守られていたことで、どこでもすべてが美しく調和がとれていると信じていたのですが、現実の外の社会はそうではありませんでした。

結婚して日本の家庭へと入った私が驚いたのは、夫婦間や親子間での尊敬のなさでした。男女共同参画委員会にも入り、そのときにこのような話を聞きました。「女性はまず娘の時は父親に従い、妻の時は夫に従い、夫が亡くなれば息子に従う」という話です。

これはかなり昔からある話で、インドにも同じような話はあるのですが、インドの話はこう続きます。「しかし、それと同時に女性は家の太陽であり、太陽のように家庭を明るくし、尊敬の念をもって大切にしなければいけない」と。

インドでは、一番最初の学校は母親の膝もとだといわれています。母親の行動いかんによって社会の良し悪しが決定されるのです。男性に女性を尊敬する教えは、親にしかできないと強く思います。

アジアでよくある女性像として──その母は子供に幼い頃から、女性は我慢するもの、家のことは女の子がして、男の子が台所には入ると恥ずかしい、お兄ちゃんが一番だ、お兄ちゃんがよい学校に行くのは必要なことだ、母親も夫から何を言われても我慢をする、それが家の中で当たり前でふつうのことになる。

嫁にいくと、姑も小姑も、嫁にきた女性をいじめる、男は家族から離れて寂しくなると外に愛人をつくり、この愛人が母親の家庭だけでなく、子供たちから父親まで奪ってしまう。職場で女性は女性の悪口、陰口を言う──。

女性自身ですら、意思決定に関しては男性の方が優れていると考えている人がいます。男女平等の話をする以前に、女性自身が女性に対する女性像を変える必要があるのです。

 

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